外はすでに陽が沈み、音楽室と生徒会室の明かりだけが点いていた

「なんや、聞いたことのある曲やな。なんやろか?」

窓に乗り出し、首をひねる沢村会長にオレはボソっと呟いた

「モルダウ」

「おーそうや。聞ーとったら、眠ーなってしまう曲」

ムッ

悪かったな、眠たくなる曲で
オレの好きな曲なんだよ

「こんな時間まで弾いとるやんて、めずらし」

「知ってる人ですか?」

「狩野 響とか言うたな。毎日放課後にピアノ弾いてるし。こーちゃんと同学年やろ」

「さぁ?8クラスもあったら、知らない顔のほうが多いですよ。会長のほうが詳しすぎるのでは?」

学校の雑学的な事に関しては、本当に詳しい人だ

顔が広いというか、なんというか

「俺も妹から、『校内のいい男ランキング』 ゆーのを見せてもろたから知ってるだけや。もち、こーちゃんも上位に入っとたし」

「え?」

俺は思わず声をあげた

「順位が気になるんか?こーちゃんは確か・・」
 
そんな、くだらないランキングなんかに興味はなく、気になったのは・・

「狩野って、男性なんですか?」
念の為、再度聞き返す

「今、言うたやろ?いい男ランキングにー」

会長の答えは置き去りに、オレは音楽室を凝視する

晶のピアノの彼というのは・・狩野 響!?


モルダウの曲が終わると次の曲が流れ出した

「この曲は俺もわかるわ。なんとかに・・願いをやろ」

星に願いを・・・晶の好きな曲だ

前にモルダウの曲を聴いていたとき、晶に曲名を教えた事がある

『モルダウの次に星に願いを』なんて、偶然ではあり得ない

オレは・・お目当ての人物がいないと肩を落とした晶の姿までは見ていたが、家に帰ったのを、最後まで見ていない

音楽室に晶がいる!!


「こーちゃん?」

「会長、すみませんが、お先に失礼します。下の音楽室にも帰るようにオレが、声かけて行きます」

平然を装ったが、自分の顔が強張っているのがわかる

生徒会室を出ると、歩幅がだんだん早くなった

オレの予感が正しければ、きっと二曲を聴いた晶は・・・

 
音楽室につくと、ノックもなしに扉を開けた

狭い教室だ。見渡さなくても、すぐにわかった


・・・晶は机に伏せて寝息を立てていた