コン・コン
 
 『潤様、お連れの方の治療が終わったとの事です。処置室の方へと』

 部屋のドアがノックされ、外からの声にオレは立ち上がった

 「晶・・」

 「会いに行くか。晶ちゃんに。上着は着ろよ」

 五十嵐に渡された上着に袖を通しながら、晶のいる処置室へと向かう
 処置室は、最初に晶を運んだ部屋の隣にあった

 「はぁ・・」
 ドアノブを掴み、一瞬、躊躇した
 
 晶に会ったら、最初に何と声をかけよう
 いや、今は晶の元気な顔が見れればそれでいい

 治療室に入ると、看護婦が晶の頭の下に、氷枕を敷いている所だった

 晶の額には氷嚢が乗せられ、右腕には点滴が打たれていた

 「あき・・ら?」

 枕元に駆け寄り、晶の顔に触れようとした時、五十嵐の父親から廊下に呼び出された

 「先生、晶の治療ありがとうございます。あいつ・・大丈夫ですよね」

 「とりあえず、今の所は。ただ・・彼女はただの風邪ではなく、咽頭結膜熱と言って、アデノウィルスという微生物が感染していてね、同時に肺炎をおこしかけて、危険な状態だ」

 「ウィルスって?治るんですか?」

 「現状では、ウィルスに対する特攻薬はないんだが、大丈夫2週間もすれば自然に治癒する病気だよ。ただ、ウィルスなので感染力が強い。ここには妊婦も新生児もいるから他の病院へ移った方が」

 他の・・病院・・

 「それは・・」
 言葉を濁すオレに、横から五十嵐が割り入ってきた

 「それなら、俺のいる右別館へ移せばいいじゃないか。病院からも近いし、学校からも近い。父さん、彼女は皇紀にとって大事な女(ひと)なんだ。だから、俺からも頼む。他の病院へ移すのはやめてくれないか」

 オレの横で五十嵐が、父親に頭を下げた

 「お願いします」
 オレも頭を下げる

 「わかった。出来るだけの事はしよう。注意事項は看護婦に聞くといい」

 「ありがとうございます」

 
 その後、すぐに晶の身体は、五十嵐のいる右別館に移された

 ウィルスと言う事もあり、晶が触れたと思われる箇所がすべて看護婦によって消毒された

 感染をふせぐため、タオル等も共用を禁じられ、使い捨ての物を使用するように指示された

 他にも色々と注意事項を言われ、ようやく落ち着いた時は、東の空が薄っすら明るくなっていた