「雨・・止んだな」

 皇兄の声が静かに響く

 耳をすませば、雨音がなくなっていて、お月様の光が、小屋の中に差し込んでいた

 『雨が止んだら・・帰るぞ』

 皇兄と抱き合っていられるのは、雨が止むまで。そう、約束していた
 約束通り、雨は止んだ。私は、皇兄と離れなければならない

 そして、明日からはいつも通り、兄と妹で・・

 「さて、そろそろ帰る準備をするか」

 皇兄の言葉に、私は顔を起し、白衣で胸を隠しながら皇兄と向き合った

 「まだ、泣いてるのか?」
 目元に皇兄の親指が伸びてきて、私の涙を拭った

 その後、私の左頬をつまむと、ピッと横に引っ張った

 「ふにぃ」

 「ふふっ。泣いてるより、こっちの方が似合うな」
 皇兄は、目を細めて笑う

 「お前は、笑ってるほうがいい。ほら、笑えよ」

 笑う・・笑える・・?
 皇兄が私の笑顔を望んでいる・・・
 皇兄の笑顔に答えてあげたい・・けど・・

 「・・ん出来るって思ったのに・・」
 さっきまでは、我慢出来るって思ってた

 私は深く息を吐いた

 「あき・・ら?」
 皇兄が心配そうに私の瞳を仰ぐ

 「ケホッ。皇兄・・ケホッ。皇兄・・もう少し私の話の続き聞いてくれる?」

 「でも、お前咳が・・声もかれて来ている。話なら家ででも出来るだろ」

 「今・・したいの。聞いて」
 止める皇兄を制して、私は話し出す

 「白馬の王子様もそうなんだけど、私にはもうひとつ夢を見ていた事があったの。自分の初キスは、絶対好きな人としたいって」

 皇兄のキスシーンを見たとき、好きだという感情より先に、ファーストキスの相手は皇兄でありたいと思った

 私は、この時から、この人を好きになる階段を上り始めていたんだね

 「皇兄の初キスは、好きな人とだった?」

 「オレは・・想う相手ではなかったが、お前はちゃんと夢が叶ってよかったじゃないか」

 そう言って、皇兄は私から顔を逸らした

 「会長・・と両想いでよかったな」

 一瞬・私とキスした事を皇兄が思い出してくれたのかと思った
 
 でも、違った
 皇兄は私の初キスの相手は、会長さんだと思っている

 「皇兄・・私・・着替えたいから、目閉じててくれない」

 「あぁ」

 皇兄が目を閉じたのを見て、私はゆっくりと皇兄から離れた