「ねぇ、教えて。何を思い出したの?」

 笑いのツボに入ったオレに、痺れをきらした晶は、口を尖らせた

 「悪い、悪い」
 オレは息を整え、晶に語り始めた

 「お前、覚えてる?小学3年の時にやった学芸会の時の事」

 「がく・・芸会・・?」

 「題目が『眠りの森の美女』で、オーロラ姫役やっただろ」

 妖精の毒針によって、100年もの眠りについたオーロラ姫が、100年後王子の口付けによって、目覚めるという話なのだが・・

 「え・・えーと・・」
 
 こいつ、覚えてないな
 晶の頭に?マークが見えそうだ

 「忘れてるならいい」
 
 「あっと、思い出した!うん。やったよ。何とか姫・・それがどうかしたの?」

 絶対・・思い出してないよな。まぁ、いいか

 「100年の眠りについたオーロラ姫が、王子の口付けによって目覚める劇の山場シーンでお前・・」
 
 王子役の子が眠っているオーロラ姫(晶)の額にキスをして姫は目覚め、王子と結ばれるはずだった

 ところがだ。いくらキスをしても晶は一向に目覚めない。ご丁寧に、寝息まで立てて眠ってしまっていた
 そして、痺れを切らした王子が晶の額を叩いて起こす羽目になったのだ
 
 「あの時は、ホントに傑作だったよな。いくら眠る演技でも、本番でホントに眠るか?」

 「う・・・・。だって、あの時は眠かったんだもの・・。セリフもなかったしさ・・・」
 晶は、真っ赤になってうつむき、話の語尾がだんだん小さくなって行った

 「皇兄って、どうしてそんな余計な事、いっつも覚えてるの・・もう」

 オレは、お前の事なら楽しい事も、嫌な事もすべて覚えてるよ

 そして、お前を抱いている今の至福の幸せは、一生忘れない

 お前の髪の匂い、温もり、肌を伝わる脈打つ鼓動、絶対忘れない

 もし、この先辛い事があったとしても、今日の事を思い出せばきっと乗り越えられる

 「私も、昔の皇兄の事思い出した」

 昔のオレ?

 「皇兄も、ロミオとジュリエットのロミオ役やったよね」

 あぁ、小学6年の時、風邪で学校を休んだ日に勝手に配役を決められた時か
 オレ、話題になるような事したか?

 「ふふふっ」
 今度は晶が意味しげに笑う

 「なんだよ。その笑いは」

 「さっきのお返し」

 今、晶とのとりとめのない会話もきっと良い思い出になる