晶を抱きしめてから10分は過ぎただろうか?

 雨の音は、まだ聞こえていた

 晶は、オレの肩で安心しきったように目を閉じている

 「う・・ん。ケホッ」
 そして時々、子犬の様に鳴きながら、乾いた咳をする

 その度に、首筋に晶の吐息がかかり、オレは息を飲む
 晶から伝わる体温がオレの理性を狂わせようとしていた

 「・・・・んっ」
 
 まずい
 晶の甘い声に意識が遠のきそうになり、抱きしめていた腕に力が入る

 「あぅっ」
 晶が苦しそうに背中を仰け反った

 「悪い、晶。大丈夫か?やっぱり、無理があるな。やめるか?」

 「大丈夫だもん。私はこうしていたい」
 晶はプルプルと頭を横に振る

 オレが・・大丈夫ではない
 このままだと、床に押し倒し、お前を犯してしまいそうだ

 脳が、晶に支配される前に・・意識を別の所に置かないといけない

 「晶・・?眠ってるか?」

 「起きてるよ」 

 「雨が止むまで、何か話そうか?」

 別の話をしていれば、少しは意識がそこに集中するだろう

 「・・いいよ。でも、何をお話する?」

 「そうだな・・」
 オレ達の会話はそこで止まってしまった

 最近、晶とはまともに会話をしていない
 それを突然、話をしようと言っても、話題が思いつく訳もない

 誤魔化す様に、晶の髪を撫でた

 撫でて晶の髪の短くなった事に気付く
 そうか、こいつ髪を切ったんだ。うなじの隠れる長さに・・

 以前晶から、小学4年頃から髪を伸ばし始めたと聞いていたから、短くしたのは6年ぶりか

 6年前・・晶は小学3年生
 オレがまだ、晶を恋の相手として意識していなかった頃
 当時・・今もだが晶を溺愛している父さんに、無理やり晶の学芸会に連れて行かれたな

 劇の題目が『眠りの森の美女』
 晶はこの髪色のせいで、劇になると大抵お姫様役を演じていた

 当然、この劇もオーロラ姫役で・・

 「フフフフッ」
 昔を思い出して、オレは思わず笑っていた
 
 「なに?皇兄ひとりで、楽しそう」
 オレの笑い声に、晶が顔を上げた

 「ちょっとな。昔を思い出して」

 「昔って?いつのこと?」
 興味津々で、晶は目を輝かせ、オレから密着した肌を浮かそうとする

 オレは晶の胸が視界に入ってくるのを恐れ、急いで抱きしめ直す