皇兄は私に背を向けたまま、私達の距離は畳一枚分離れていた

 皇兄は、膝を抱え額を膝につけたまま、ジッと動かないでいる

 たった3歩離れた距離なのに遠い

 でも、動かないと皇兄との、距離は縮まらない

 「皇兄・・あの・・」
 私は立ち上がって、皇兄の元へと歩いて行った
 
 辛い時は辛いと伝えないと
 
 「何だ」
 皇兄は顔を上げてくれない

 痛い・・足が・・もう立っていられる時間も限界に近い

 「かえるの足は皇兄に直してもらえるけど」
 ゴクンと息を呑む

 「私の足は」
 ズキン・ズキン。まるで剣山を全体に刺された痛さ
 皇兄・・私、足が・・痛くて

 「お前、さっきから、かえる・かえるって少しは、じぶ・・のお前、その足!」

 ようやく、顔を上げてくれた皇兄の瞳の中に、私の左足が映っていた

 「どうしたんだ!!」

 「人に踏まれちゃって・・痛っ」
 もう、支える事ができない。立ってられない!

 バランスを崩しながら、床にお尻をついた

 「こんなに酷くなる前に、どうして言わなかった?」
 
 理由を言ったら、きっと皇兄怒るよ
 少しでも、皇兄と一緒にいたかったなんて

 皇兄は、青紫色に腫れた私の足をゆっくり揉み、骨の状態を確かめると、突然ビリビリとシャツの袖を引き千切った

 「少し痛いだろうが、立つ事は出来るはずだ」
 そのシャツで、つま先を固定され、足の甲できつく結ばれる

 こうやって何度、皇兄に手当てをされただろう
 私が、料理で火傷や切り傷を作った時も、こうして手当てしてくれた

 皇兄の手は、魔法の手だと思う
 包帯を巻く手、私の髪をアレンジしてくれる手、私の頭を撫でてくれる手
 大きな手なのに、器用で・・私はこの手が好き

 大好き
 私は、皇兄の手に自分の両手を重ねた

 「皇兄・・私、皇兄に迷惑かけてる・・?」
 また、私はこの手に助けられている

 「あぁ、今までで一番な」
 皇兄は最後の結び目を作りながら答えた

 今までで、一番・・か。そうだよね

 「そっか、じゃぁ迷惑ついでに聞いてもいい?」

 私は皇兄の手をギュッと握り締めた

 聞いてみたい・・でも・・恐い・・

 「私のこと・・好き?」
 
 やっと言えたこの言葉
 
 でも、皇兄から返って来る答えは、わかっている