自分のまつ毛に乗っかっていた雫が、涙の様に流れ落ちた

 「あぁ、大事だ。大事なものだ」
 皇兄は吐き捨てるように言うと、私の両脇を掴み抱き上げた

 「大事なものだから、お前と一緒に連れ帰る。行くぞ」


 『晶は大事な妹だから、宜しくお願いします』

 ふと、会長さんが言った言葉を思い出した。皇兄が会長さんに私の事をお願いした時に言った言葉

 晶は大事な妹・・妹

 「大事・・?」
 私が妹だから大事だから、皇兄は私を連れ帰ろうとしている
 帰りたくない・・家に戻ったら・・兄妹に戻ってしまう

 「・・たくない。私、帰りたくない」
 足をバタつかせ、手で、身体全身で皇兄に抵抗すると、私は皇兄の腕から抜け出した

 「晶!ワガママ言うんじゃない!!」
 皇兄の声と共に、どしゃぶりの雨が降り注いだ

 ワガママ?ワガママなの?
 もう少し、現実に戻りたくない事は、私のワガママなの?

 「帰るぞ!」

 「嫌!」

 大粒の雨の中、私は激しく抵抗した。皇兄にこんなに抵抗したのは初めてだ

 それに・・まだ・・私、素直な気持ち、皇兄に伝えていない

 「わかった。好きにしろ。いったい、お前はどうしたいんだ?」
 最初に折れてくれたのは、皇兄だった

 最後は、皇兄の方から折れてくれると知ってて抵抗したのかもしれない。私はズルイ

 「帰りたくないなら、何処に行きたい?」

 皇兄も私も、全身ずぶ濡れだった。私だけならともかく、皇兄が風邪をひいてしまう

 「雨・・雨宿りが出来るとこ」
 私は急いで皇兄の後ろの小屋を指差した。皇兄は小屋を確認するや否や、私をそこに連れ込んだ

 小屋の中は、外気の空気が入っていなかったため、生暖かく、反対に雨の雫が冷たく感じた

 全身が雨に濡れた私は、服を着たままお風呂に入ったみたいで、ワンピースも私の皮膚と同化していた

 皇兄・・は?

 皇兄のほうも、ずぶ濡れで、肩のライン、胸の筋肉のラインがシャツと一体化していた

 均等な身体のライン。広い背中、広い肩幅、神社へと向かう途中で繋いだ繊細な指先

 もう一度、手を繋ぎたい

 小屋の中の押入れへと、足を運ぼうとする皇兄の手を私は繋ぎに行った

 「皇兄・・」
 
 私とは正反対の温かい手。このまま離したくない