ガラス細工の事などどうでもいい

 なんで、晶がここに独りでいるのか?
 会長はどうしたんだ?

 聞きたい事が幾つもあるが、今は晶の身体の方が心配だ

 「とにかく、早くここから移動するぞ。来い」

 晶の腕を掴もうと手を伸ばすが、するりと交わされた

 「晶!」

 「あのね。おたまじゃくしは大丈夫なんだけど、かえるの方が足が欠けちゃってて、でもほんのちょっとだけだし、これはこれで愛嬌があるっていうか」

 こいつ、何言ってる?
 ガラス細工など、この際どうでもいいだろ?
 もっと、自分の身体を心配しろよ

 「わかった。それは後から見るから、とにかく今はー」

 「よくない。大事なものでしょう。大事なもの・・だよね?」
 晶は首をかしげ、オレを見つめる

 ポタポタとまつ毛からも雫が落ちていた

 「あぁ、大事だ。大事なものだ」
 オレは、晶の脇を掴み、抱き上げた
 晶の身体が微かに熱い

 「大事なものだから、お前と一緒に連れ帰る。行くぞ」

 雨も小雨になって来た。行くのなら今だ

 「大事・・?」

 晶は抱き上げられながら、呟いた

 「・・たくない。私、帰りたくない」
 晶は足をバタつかせ、身体をねじらせると、オレの腕から抜け出した

 「晶!ワガママ言うんじゃない!!」
 
 オレの怒鳴り声と同時に、ドシャ降りの雨が、オレ達2人に直撃する

 「帰るぞ!」

 「嫌!」
 雨の中で、オレ達の攻防が続く

 晶にこんなに抵抗されるとは・・
 蕁麻疹は現れていないが、そんなにオレの事が嫌なのか・・?

 もうオレは、兄としてお前を心配することも許されないのか・・?

 「わかった、好きにしろ。いったい、お前はどうしたいんだ?」

 晶は頑として動こうとしない為、オレから折れるしかなかった

 「帰りたくないなら、何処に行きたい?」
 
 せめて、雨がかからない所にしてくれ。お前の身体が心配なんだ

 「雨・・雨宿りが出来るとこ」
 晶は、オレの後ろを指差した
 そこは、神主達が控え室に利用している小屋

 とりあえず、雨が凌げるのなら・・なにより、晶がこの小屋なら雨宿りしても言いというのだ。今は従うしかない

 小屋の中に入り、パタンと引き戸を閉める

 しばらくすると、暗闇の中に、妖精の様な晶の姿が浮かび出していた