「大変じゃないですか。探しに行かないと」
 
 引き裂いたハンカチを、双葉の傷口に当てきつめに縛る

 「先輩、今すぐ探しに行った方が・・」

 「何処に落としたのかも見当がつかないし、いいんだ。大した物じゃない」

 かえるとおたまじゃくしのペアのガラス細工
 昔、晶と一緒に買ったのを思い出し、懐かしくて買っただけの事

 何時までも持っていても、未練がましいだけだ

 「だめですよ。私のせいで、落としたのかもしれない。私探しに行きます。痛っ・・・!」

 椅子から立ち上がろうとして、足に痛みが走り、双葉は顔をしかめた

 「だから、無理するなって」

 「無理します。でないと、先輩に申し訳ない。『もも』にも・・先に殴ってきたのは彼女だけど、悪いのは私だから。だから、探しに行って下さい。先輩が行かないのなら、私が行きます」

 再び立ち上がり、下駄を履こうとする双葉に、オレは肩を落とした

 「わかった」

 「ホントですか?」

 「あぁ、ただ・・」
 オレは空を見上げた。嫌な灰色の雲が空を覆い始めている

 「雨が降りそうだ。降る前にあんたは帰ったほうがいい。タクシーを拾える所まで送っていく」

 「大丈夫です。タクシーならちょっと歩けばすぐつかまると思うし、私を送っている間に、ガラス細工が踏まれたりしたら大変ですから」

 双葉は、「絶対、見付けてくださいね」と念を押し去って行った

 「ふ・・む」
 探せと言われても・・白と赤のギンガムチェックの10cm角の袋に入ったものだ

 重いものでもないし、風に飛ばされたり、踏まれたりしたら、それで終わり

 もろく・・もろく壊れやすいもの

 確か・・神殿に参った時はまだ、ポケットの中にあった

 落としたとすれば、神殿から休憩場までの間

 記憶を辿り、元来た道を引き返す

 時間も遅くなって来たせいか、人の数も少なくなってきている

 「ない・・な」
 どう考えても、見つかる訳がない

 「きゃぁぁ」
 と言う悲鳴と共に、パタパタと足音がすると前から逃げるように人が走ってきた

 「雨・・だ」
 パラパラと小粒の雨がこっちに向かってくるのが見える
 雨のせいで、境内にいた見物達が、出口のほうへと散って行った

 オレはビニール傘をさしながら、人の流れの反対の方向へ歩き出した