カツンと地面にウチワが落ちる

 会長さんの右手が大きく振り上げられた

 私は、会長さんから視線は外さない

 目を閉じるわけにはいかない

 現実を・・自分がした事に対しての結末に目を逸らすわけには行かない

 奥歯を噛み合わせ、殴られるのを覚悟した


 「・・・ズルイなぁ。『もも』は」

 「!」

 「俺が殴れんの、わかってて、言うんやもんなぁ」

 振り上げられた会長さんの手が、ゆっくりと降りて来て、私の左頬に触れ、視線が、やさしく落とされる

 会長さん・・泣きそうになるのをグッとこらえ、唇を噛みしめた

 「それとも、それも計算の上での事なんか・・?ちゃうわな。そんな打算的なこと、出来る様な子やないもんな」

 「ん・・・ん・・」
 私は、何も答えることが出来ず、大きく左右に首を振った

 殴られて、罵られた方が、どんなに楽だったか・・

 「なぁ、覚えとる?俺が『もも』に初めて会った時に、言った事」

 「・・・」

 「『もも』の瞳は、オニキスのように大きく黒い。そしてとても芯が強い・・て。俺が好きになったんは、覚悟を決めた時のあんたの凛とした瞳や」

 「ぅ・・・ぅ・・」
 
 泣かない。泣かないとそう決めたのに・・
 涙が、堪えられずに溢れて来る

 「泣くな・・泣くんやない」
 
 会長さんの両腕が私の後頭部を優しく包み、私を抱き寄せた

 「『もも』は笑顔の方がええ。だから泣くな」
 
 頭に響く、かすれた会長さんの声

 私の肩に、冷たい雫がポタポタと落とされた

 「はぁ・・あかんな。目に埃が入ってしもて、涙が止まらんわ」
 
 会長さんはゆっくりと自分から私の身体を離した

 「いつまでも、こんなんしとったら、未練がましゅうて『もも』に嫌われるな」

 「そんな・・!」
 嫌うなんて・・嫌うなんて、絶対にない

 もしも、皇兄より先に会長さんと出会っていたら、私・・私

 もしもなんて、会長さんには失礼だね

 「さぁ、行きや。悪いけど、今は送っていく事、出来きへん」
 トンッと背中を押される

 「はい」
 私は、石段へと歩き出す

 「最後に、『もも』にそういう瞳をさせる男は、『もも』の事、幸せに出来るんか?」

 背中に浴びせられた会長さんからの問い

 石段を1歩降りて、私は立ち止まった