「なんや・・これ・・」

 神社へと続く、先の見えない石段を見上げ、会長は呟いた

 「何段あるんや・・?」

 「確か、80段だったかと思いますよ。止めますか?」

 「行くで。俺らの神様や。晶もがんばれるな」

 オレの言い方に、俄然意欲を燃やした会長は晶の手を力強く握り、階段を登り始めた

 晶もその後に続く

 「はぁ・・」
 オレも1歩踏み出した
 
 晶の白いワンピースが眩しい

 階段を登る度に、スカートの裾がふわふわと踊る

 「?」
 何だ?晶の左足が微妙に・・おかしい様な・・?
 
 気のせいか
 会長に手を引っ張られているせいで、そんな風に見えるんだな

 オレは、晶に対して過敏すぎる

 石段を2段飛ばし、晶の横についた
 
 オレが1歩で済む石段に対し、晶は3歩かけて登っている

 昔から、変わらないな。この登り方

 この調子で、転ばなければいいんだが

 「キャッ」
 ほら、言ってる側からこれだ

 石段の角につんのめった晶がバランスを崩す

 左側は会長が支え、右側はの石段に倒れそうになっているのを、オレが腕を掴み持ち上げる

 「気をつけろ」

 「ごめんなさい」
 オレはすぐに晶の手を離した。晶の『ごめんなさい』は聞くに堪えがたい

 神社まで、先に行くか。考えて見れば、晶と会長の2人のペースに合わせる必要はない

 歩幅のピッチを早めようと足に力を入れた時、オレの左指先に何かが触れた

 虫?
 急いで指先を見る

 「!」
 
 まるで、スローモーションを見ているようだった

 晶の小さな手が、指先に伸びて来て、オレの親指以外の指を握り締めたのだ

 トクン・・否応なく、心臓が動き出す

 晶もゆっくり、オレの方を見た

 「だ・・め・・?」
 唇の動きだけで、晶はオレに訴えた

 だめ・・?
 晶、本当にそう聞いたのか?
 それとも、オレが勝手に思い込んだ勘違い?

 晶は目を伏せ、うつむき、息を吐くと、徐々に握った手の力を緩めて行こうとした

 勘違いでもいい。今は、勘違いにしておきたい

 離れていく晶の手をオレは握り返した

 晶が驚いて顔を上げる

 オレは軽く頷き、石段の先を見た

 温かい晶の手の平

 身体のほんの小さな1部が触れ合ってるだけの事

 それでも、確かに幸せだった