「えっ!」

 水色のパスケースを出された時、皇兄が驚きの声を上げたのを私は聞き逃さなかった

 皇兄は、目を見開き、数秒パスケースを見ると私の方に目を落とした

 「皇兄・・これは・・」
 
 どうしよう。何て言おう
 勝手に持ち出して、人にあげてしまったんだもの
 皇兄、怒ったかもしれない

 「あの・・ごめ・・」

 謝ろうとする私の横を通り過ぎ、皇兄は会長さんの持つパスケースを覗き込んだ

 「それ、写真写りの悪いこいつにしては、結構よく撮れてるでしょう」
 皇兄は目を細めながら、写真を写した時の状況を会長さんに説明していた

 「こいつ、入学式に遅刻するって言ってるのに、すみれの花を見つけて、しゃがみ込んで動かないんですよ。なぁ、覚えてるか晶?」

 「さ・・さぁ」
 話は私に振られたが、私はそれしか答えることが出来なかった

 水色パスケースを見ても、皇兄の表情も仕草も、口調も変わっていない

 意味なんてなかったんだ・・
 枕の下に私の写真を置いていたから勝手な想像してた
 もしかして、皇兄は・・って

 皇兄にとっては、なんの意味もないこと
 すみれの花言葉も・・なにもかも

 良かった。尋ねなくて
 写真の意味や、すみれの花言葉の意味を・・ただの気まぐれだと言われたら、もっと傷ついてた

 
 「何よ、そんな写真。私なんて、そんな物より素敵なもの皇紀先輩にもらったのよ」

 一緒に写真を覗いた双葉さんが、胸を張って会長さんに詰め寄っていた

 「キスよ。キス。キスしてもらったの」

 ドクン
 双葉さんの言葉に、私の心臓が高鳴りだす

 皇兄・・が双葉さんとキス!!
 
 やめて、聞きたくない

 「誤解を招くことを言うな。額にしただけだろ」
 皇兄の手が双葉さんの頭を叩く
 
 「ほっぺにもしました」
 と少し膨れて双葉さんが皇兄を見ている

 2人の会話は、まるで仲の良い恋人同士みたいで、聞きたくないのに耳の中に入ってくる

 「それなら、こっちも負けてへんよな。晶」

 「えっ!?」

 会長さんの片腕が腰に伸びてきて、引き寄せられると、耳にかかった髪をかきあげられた

 まさか・・だめ・・

 ゾクゾクと鳥肌が背中に立ってくるのを感じる
 
 会長さんは、私の弱点が耳だと言うことを知らない