「あ・・」
 私は、息をのんで、目を伏せた

 振向かなきゃよかった。皇兄の声に反応しなきゃよかった

 後悔跡を絶たずってこの事だよね

 ズキンッと左足が疼き、私はよろめいた

 そして、パフッとがっしりとした男の人の胸の中に受止められた

 「あ・・」

 「はずかしいとか言うて、晶の方が大胆やな」

 頭の上の声の主は、会長さん

 私の姿勢は、会長さんの胸に頬を埋め、両手を会長さんの背中に回している。その、私の背中に会長さんの腕が回され、お互いに抱き合っている形になっていた

 「あーっ!やっぱりデレーとしちゃって。みっともないわよ。オニイチャン!」

 私達の姿を見つけた双葉さんが、フランクフルトの屋台からこっちに向かって歩いてくる

 当然、後ろには皇兄の姿も

 やだ・・こんな姿、見られたくない   見られたくない

 「はな・・して」
 私の小さな声は、会長さんには届かない

 だったら、お願い皇兄、私を見ないで

 「しゃぁないやろ。俺と晶はラブラブなんやもん。なぁ晶」

 「あ・・えっと」

 皇兄の顔が見れない。皇兄、今どんな表情してるの?

 
 「私だって、負けてないわよ。皇紀先輩にプレゼントして貰ったんだから」
 そう言って、双葉さんは赤と白のギンガムチェックの紙袋を出した

 あの袋・・どこかで・・?

 「プレゼントとか、大袈裟に言うな。ただのガラス細工だろ」
 双葉さんの頭をコツンと叩きながら、皇兄が呟く

 ガラス・・細工
 双葉さんに、皇兄がガラス細工を・・

 『2人とも黒髪で、背の高い美形のカップル』

 黒髪で・・背の高い美形の・・

 あぁ、なんだ・・そうか。かえるとおたまじゃくしのガラス細工を買ったのって、皇兄達だったんだ

 双葉さんの持つ紙袋の中に、きっとそれが入っている

 そうだよね。皇兄にとって、あんな思い出、覚えてるわけないよね

 私だけ、思い出に縛られて、取り残されているみたい

 「俺やて、晶にプレゼントもろたもん」
 会長さんの腕が緩められ、私の身体が自由になった

 私、会長さんにプレゼントなんてしてないよ。貰ったのは私の方

 ガラス細工のひよこを・・

 会長さんは浴衣の袖を探り、「ほら」と元気よく取り出した

 水色のパスケースを・・