「晶ほら、あーんしぃ」

 私の口元より上の位置に、会長さんは唐揚げをつまんでいた

 もう。ワザとやってる

 私は少し背伸びをし、パクッと唐揚げを食べた

 「はずかしいから、やめて下さい」

 会長さんは人の目と言うものを、気にしないのだろうか?

 「そんな、照れとる晶もカワイイ」

 グリグリと頭上を頬ずりされ、うまく誤魔化される

 「せや、これさっきの」

 渡されたのは、さっき買ってもらったひよこのガラス細工

 「ありがとうございます」

 掌に乗せ、淡い黄色のヒヨコを眺める

 カワイイ・・カワイイけれど・・

 ふと、台の隅にあった、かえるとおたまじゃくしが思い浮んだ

 あれ、ほしかったな

 会長さんに無理言ってでも、買ってもらえばよかった

 買ってもらう?買ってもらおうと思うからいけないんだ

 自分で買うのなら、問題ないよね

 「会長さん、トイレに行ってきていいですか?」

 「ん?俺も一緒に行ったる」

 「大丈夫。1人で行けます。あんまり子供扱いすると、怒りますよ」
 両腰に手を当て、怒った振りをする

 「わかった。気つけて行ってくるんやで。ここで待っとるから」

 「はい。行ってきます」
 元気に返事をし、今来た道を逆戻りする

 目指すは当然、ガラス細工の屋台

 「えーっと確か・・」

 キョロキョロと辺りを見回す

 「あった!」

 すごいっつ!一発で見つけた!!

 自分で自分を褒めながら、足早に駆け寄った

 「すみませーん。さっきの・・かえ・・るの・・」

 自分の声がだんだん小さくなっていった

 さっきまで、台の隅にあったかえるとおたまじゃくしの細工がなかったからだ

 「うそ・・ない!」

 ここを離れてから、15分も経っていないはずなのに・・

 「ここにあった細工、片付けちゃったんですか!?」

 「それならさっき、売れたよ」

 売れた!?

 「在庫は無いんですか?」

 「ないねぇ」

 「どの人が買っていったの?教えて」
 追いかけて、譲ってもらおう

 「うーん。2人とも黒髪で、背の高い美形のカップルだったなぁ。ほら、あそこに頭が見える」

 指差された方向を見るが、背が低い私には見えなかった

 「ありがとう。行ってみます」
 とりあえず、指差された方向に走る事にした