「次は広島焼き。あっ、今川焼きも!」

 カラカラと下駄を鳴らし、双葉は屋台のハシゴをしていた

 背が高いから、見失うことはない

 「お前、さっきもそれ、食べただろ」

 呆れながら、広島焼きを指差すと

 「さっきのは、関西風お好み焼きです」

 と答えが返ってきた。そして、今川焼きへと移動する

 行きたい所に付き合ってやるとは言ったが、食べ物を見つける度に、立ち止まられたのではオレの身が持たない

 「いい加減にしろよ」

 明日の朝、腹が痛くなっても知らないからな

 「はふ、はふ。今日は、私の失恋記念日なんです。最後まで付き合ってもらいます」

 失恋記念日ね

 オレの失恋記念日でもあるな

 「オレにもひとつくれよ」

 双葉の横から、手を伸ばし、たこ焼きをつまむと口の中に頬張る

 たこが入ってない上に、中まで火が通っていない

 オレが渋い顔をしていると、クスクスと双葉が笑った

 「先輩って、どんな表情も絵になりますよね。私、2番目で構いませんから、付き合ってもらえません?」

 「だめ」

 「はーぁ。先輩の心を射止める人って、どんな人なんだろ。美人ですか?」

 目がクリッとしていて、どっちかと言えば可愛い方だな

 「頭が良いとか」

 頭?悪いとも言えないが、鈍いな

 「運動神経抜群だとか」

 転ぶのに、世界選手権があったらトップだな

 「もういいだろ。詮索しなくても」

 「だって、何か考えてないと思い浮かぶんだもの。デレ~としたオニイチャンの顔。きっと、ニコニコで『もも』と・・いや、晶さんといるのよ」

 双葉は綿菓子に噛り付いた

 この、境内のどこかに晶が・・・・


 
 『皇兄!見て、浴衣の帯と同じ色のリボンにしたんだよ』

 クルリ方向転換し、晶は髪につけた黄色いリボンを見せる

 『あまり、走るなよ』

 オレの注意も聞かず、晶は小さい身体を生かして、人ごみの中をすり抜けていく

 目印は、髪に翳した黄色いリボン

 

 黄色いリボン

 「皇紀先輩!?」
 双葉に、腕の袖を引っ張られ、我に帰る

 「突然どうしたんですか?あんな小さい子の後を追いかけて?」

 見ると、黄色いリボンをつけた女の子が、母親の手に引かれて歩いて行く

 そして、オレの前に、キラキラ光るガラス細工の屋台が現れた