何が『俺の言う事は信じろよ』だ。偉そうに言いやがって、五十嵐はこうなる事を分かって言ったんだ

 晶の作ったものなら、オレが食べる事が出来ると・・

 五十嵐の掌で踊らされていたのかと思うと、腹が立つ

 
 「嘘、ついていた事は謝ります。でも、先輩の事好きだから、振向いてもらいたくて・・」

 不機嫌な顔のオレに、おずおずと双葉は言った

 オレを振向かせたい気持ちは分かるが、嘘はだめだ

 「双葉、少なからずとも10日はお前と一緒にいた。予算の件を手伝ってもらい、予想以上に働いてくれたと思っている。お前は嘘をつかなくても、誠意を持って接しれば、自然と振向いてもらえるはずだ」

 「先輩も、振向いてくれますか?」

 「ただし、オレ以外」
 急いで付け加え、双葉に返すと、双葉は「やっぱり・・」とため息をついた

 「さて・・と」
 息をついて、ベンチから立ち上がった

 「最後に、正直に答えてくれたら今日は、お前の行きたいとこ付き合ってやる」

 「ホント!答えます。何でも言って下さい」
 双葉の目が輝き、両手を組んで胸にかざした

 「オレ、あんたとキスしただろ?」

 かすかに残る記憶。唇の感触と、口の中に残っていた飴

 「あの時、予算の件が片付いて安心しきっていた。本当にすまない」

 「なに、言っているんですか?キスなんて本当にしていないです!!」

 双葉は顔がはち切れんばかりに、首を左右に振った

 「だからもう、嘘はやめろと」

 さっきあれだけ言ったのに、まだ分からないのか?

 「嘘なんて、本当についてないです。どうすれば信じてくれるんですか?」

 双葉の右目からポロッと涙が落ちた。後を追うように、左目からも涙が落ちる

 嘘・・泣きか?
 いや、違う。双葉の涙は本物だ

 「悪かった」
 右手を差し出し、双葉の涙を掬い取る

 「疑って、悪かったな」
 
 左手を双葉の頭に回し、引き寄せる

 「お前の望むキスは出来ないが、これで我慢してくれ」

 右手で双葉の髪を掻き揚げ、額にそっとキスを落とし、次に右頬にキスをした

 双葉の首から顔にかけて、赤く染まっていくのがわかる

 強がってても、子供だな

 「先輩、もう1回して下さい」

 「バーカ。調子に乗るんじゃない」

 ピンッと額を人差し指で小突いた