勘の鋭い女は、嫌いではない

 双葉の身体がワナワナと震えているのがわかった

 オレのもう一方の手が、振り上げられて、双葉は目をつぶり、口元を引き締めた

 殴られると思ったのだろう

 ピンッ

 中指で、双葉の額にデコピンをする

 「痛っ!」
 双葉は額を押さえ、目を開けた

 掴んだ襟も放した

 「女を本気で殴るわけないだろ。それとも殴られたかったか?」

 「いえ・・『もも』が・・いや『もも』さんが、皇紀先輩の妹!?嘘!」

 信じられないと言った表情で双葉は呟く

 「私・・いっぱい殴っちゃった」

 また、オレの心に火に油を注ぐような事を・・

 「最初に仕掛けたのは、晶なんだろ。こっちこそ悪かったな。あいつの代わりに謝る」

 「と・・とんでもないです。『もも』・・晶さんが怒ったのは、私が皇紀先輩と付き合ってるって嘘をついていたから。確か・・殴られる前に言われたの。『嘘つき。皇兄を困らせないで!』って」

 あぁ、そうか・・
 晶はオレの為に、双葉とケンカしたんだ・・

 だから、顔の痣も必死に隠そうとして、すべてオレの為だったのか

 あの時、晶の小さな身体を抱きしめた感覚が蘇る


  『このまま、お前を連れ去りたい』そう言ったオレに

  『うん。私を連れてって、皇兄』とあいつは答えてくれた



 「皇紀先輩、本当にごめんなさい」

 無言のオレに、双葉は頭を下げた

 「いや・・あんたのおかげで、いい夢が見れたよ」

 「え?」

 「何でもない。それより・・全部吐けよ。まだ、嘘ついてる事あるだろ」

 心当たりは2つある

 双葉は目を左右に動かし、観念したように言い始めた

 「おにぎり・・の事ですよね?」

 ご名答

 「あれ、晶が作った物だろ」

 「そうです」

 やっぱり・・オレの味覚がおかしくなった訳ではなかった

 最初に晶の味だと感じたときに、疑えばよかった。まぁ、あの時はそこまで頭が回る状態ではなかったが

 「でも、私も言われて持っていったの」

 「誰に?」

 「五十嵐・・先輩。調理室にあるおにぎりだったら、皇紀先輩も食べるかもって」

 なるほどな
 通りで、五十嵐は『どんな味だった?』としつこく聞いてきたわけだ

 まったく、五十嵐の悪戯っぽい表情が眼に浮かぶ