「何がおかしいんですか?」

 笑っているオレを見て、ふてくされた双葉が顔をあげた

 「別に。あんた、身長いくつ?」

 オレを必死で追ってくる姿

 背が高いから、人ごみの中でも走ってくるのがはっきり見えた

 晶だとそうはいかないからな

 「確か・・164cmかしら・・?」

 双葉は人差し指を顎にあて、答える

 ふうん。オレの見た限り、下駄の高さを考えても、168cmはあるな

 「嘘つくな。170cmはあるだろ」

 「そんなにないっ!168.4cmです。やばっ」

 つい本音が出て、双葉は口をつぐんだ

 やはり、サバを呼んでいた

 「なんで嘘をつく?別に隠す事でもないだろ」
 世の中、モデル並みの身長に憧れている者も多くいるだろうに

 「でも・・だって・・やっぱり、男の人は小さい方がいいでしょう。『もも』みたいに」

 しゅんとして、双葉の声が小さくなっていく

 あぁ、なるほど

 「ふぅ・・」

 オレはため息をついて、コツンと双葉の頭を叩いた

 「それは、男の好き好きだろ。身長なんかで選ぶ男なら、お前から振ってしまえよ。お前なら選り取りだろ」

 双葉は、黙って入れば、まぁ美形の部類に入る

 「でも、皇紀先輩は私に振り向かないですよね」

 双葉は真っ直ぐオレを見た

 オレの身長が180cm前後だから、双葉とは12cm弱しか違わないと見下ろす角度も違うものだ

 晶とは30cm違うから、時に膝を軽く曲げなくてはならない

 晶は・・この18cmも高い、細身だが体格の良い双葉にケンカをしかけたのか

 オレ達は人ごみを離れ、簡易ベンチに腰掛けた

 「皇紀先輩?」
 座ったまま、頬に手を当て、黙っているオレに双葉が声をかける

 「どうかしました?」

 「あんた、前にケンカして痣をつけてきた時、オレに聞いたよな。妹をこんな目に遭わせた女の肩を持ちますか?って」

 「そんな事、聞きましたっけ?」

 「あぁ、聞いた」
 オレは双葉の浴衣の襟を掴み、引き寄せた

 「先・・輩?」

 「教えてやろうか?オレだったら絶対許さない。晶の白い肌に痣を付ける奴は、たとえ女でも」

 暗く、低い声で双葉の耳元で囁く

 「なっ・・」
 双葉の顔が青くなって行くのがわかる

 「先輩の妹・・って、まさか・・」