晶がもうすぐ、戻ってくる

 「会長、晶を本当に宜しくお願いします」
 オレは再度頭を下げた

 これで、いいんだよな

 「こーちゃん、十分わかったから、顔あげて」
 会長の言葉に、ゆっくりと顔を上げた

 「それと、あいつが嘘をついた事、責めないでやって下さい。オレがあいつに嘘をつかせるような事をしたんです」

 ごめんな。晶

 お前が名乗らなかったのは、オレが『顔もみたくない』と言ったのを忠実に守ったからなんだよな

 名乗ったら、必然的にオレの耳に入ってくるのを恐れて

 嘘をつかせて、ごめんな

 「じゃぁ、帰ってきたみたいですし、オレは退散します」

 「せっかく、兄妹やって分かったんやし、一緒に回ればええやないか」
 
 そこを言って、すぐ切り替えれるほど、オレは大人じゃない

 「会長、忘れたんですか?晶と仲直り出来たら、双葉と消えてほしいって言っていたでしょう」

 「せやけど・・」
 申し訳なさそうに、言葉に詰まる会長に詰め寄り、肩に手をかけ耳元で囁く

 「本当にいいんですか?どうやらオレ、彼女が出来なくて、かわいい妹を引き連れまわす兄らしいので、ホントにそうしますよ」

 「なっ・・!」
 会長の顔が紅潮したのを見て、五十嵐並の悪戯な笑顔を作る

 「はい、はい。オレもお邪魔虫にはなりたくありませんので」
 くるりと会長に背を向け、片手をあげる

 「その代わりに、会長の妹さん借りますよ」

 捨て台詞を残し、晶に向って歩き出す



 あきら・・・・晶・・・あきら・・

 心の中で何回も叫ぶ

 目を閉じていても、こんな雑踏の中でも、1歩、1歩近づいてくるあいつの足音が分かるのはなぜだろう?

 ほら、もう目を開ければ手の届く距離に晶がいる

 「缶コーヒー、サンキュ。双葉、行くぞ」
 
 不思議そうな顔をしている晶から、缶コーヒーを受け取ると、双葉を促して人込みの中をすり抜ける

 「皇紀先輩、先輩てばっ、待ってください!!」

 キーンとした超音波の声が空に響いて、立ち止まった

 そうだ。双葉が一緒だったのを忘れていた

 後ろを振り向くと、黒髪の頭がジグザグに人を掻き分けて、こっちに向ってくるのが見えた

 「はぁ、はぁ、はぁ。ひどい、先輩」

 息を切らし、しゃがみ込んだ双葉を見て、思わず笑っていた