皇兄の枕の下で見つけた、水色のパスケース

  中には、すみれの花を見ている横顔の私の写真が入っていた

 「ほんま、いい表情や。この写真、俺に頂戴」

 「え!?」
 突然の申し出に、私は固まった
 
 だって、それは皇兄の・・持っていたもの

 なぜ、写真が枕の下から出てきたのか、私はまだ、理由を聞いていない

 「なぁ、頂戴。めっちゃ気に入ったんや。晶の写真一枚も持っとらんし。大事にする」

 会長さんは、頭の上で合掌し、頭を下げて懇願した

 こんなに、私の事を想ってくれている人が側にいるのに、まだ皇兄に写真の意味を聞こうと思うなんて・・

 今更皇兄に聞いたって、どうしようもないのに

 「良いですよ」

 「ほんまか!?」
 会長さんの表情が見る間に明るくなり、パスケースの写真にキスした

 皇兄には、後で謝っておこう
 
 こんなに喜んでくれているんだもの。いいよね

 「じゃぁ早速、裏に俺のプリクラ貼っとこ。いつでも晶と一緒にいられるようにな」

 クス。まるで子供みたい

 「自分のプリクラなんて、持ち歩いているんですか?」

 プリクラを取り出している会長の財布を覗き込んだ

 「まぁな。晶やて、自分の写真持ち歩いとるやん」

 ・・そうだよね。私も会長さんと同じ事してることになる

 「ん!なんや?写真の下になんかあるで?」

 写真をパスケースから取り出そうとして、何かを見つけたらしい

 「なんや?」
 取り出した物は、透明なフィルムに挟まれたすみれの花の押し花だった

 「それは・・」

 「スミレの色きれーに保たれとるなぁ。これも、貰ってええか?」

 「え・・えぇ」

 あげてもいいよね?皇兄

 「晶は、スミレの花言葉、知っとるんか?」

 スミレの花言葉?


   『なぁ、すみれの花言葉知ってるか?』


 私は、左手にはめている腕時計を握り締めた

 同じ質問を、すみれ色の文字盤の時計を選んだ時に、皇兄に聞かれたのだ

 「いいえ、知りませんけど。知っているんですか?」

 あの時皇兄からは、花言葉は教えてもらえなかった

 「確か、ひそかな幸せ・ささやかな愛やったかな。でも、晶に対する俺の愛は、こんな小さな愛やないで。ん?どうしたんや晶?」

 私の両目から、一気に涙が流れ落ちた