「もも遅~い」
 双葉さんは両手にリンゴ飴を持って、口を尖らせた

 「ごめんなさい。飴を選ぶのに戸惑っちゃって」
 袋に入ったどんぐり飴を見せながら、私は答えた

 「ちょっと、皇紀先輩は何処?」

 「もうすぐ来ると思いますよ。さっきまで一緒の屋台にいましたから」

 「あんた、皇紀先輩と一緒だったの!?」
 双葉さんがリンゴ飴を振りかざした

 「あの」
 
 勢いに押される私と双葉さんの間に、会長さんが割って入った
 
 「俺がこーちゃんにももを見とってって頼んだんや。お前が勝手にリンゴ飴を買いに行くのが悪いんやろ。はい、お土産」

 そう言って、イチゴ飴が差し出された

 「わぁ、ありがとうございます」

 飴を受け取っていると、双葉さんが皇兄の姿を見つけたらしく、スキップしながらかけて行く

 「カワイイ」
 イチゴ飴を色んな角度から見ている私の頬を、会長さんの甲が触れた

 「どうかしました?」

 「こーちゃんと話すこと出来たか?」

 「えっ?」
 もしかして、会長さんはわざと皇兄と私を2人きりにしたの・・?
 どうして?

 「俺、ついな口滑らしてしもうたんや。ももはこーちゃんの事を好きなんやって」

 「・・・」

 「はぁ、だめやな。折角ももが俺と付き合ってくれとるのに、どこかで信じてないっちゅう事やろ」

 会長さんはしゃがみ込むとウチワで顔を隠す

 「ももとこーちゃんが親しそうにしてるのを見とったら、苦しくなって、『もも~』って叫んでしまっとった。ごめんな」

 会長さんは、こんなに、私の事を想ってくれている
その気持ちに私もちゃんと応えてあげないと

 「そんなに、落ち込まないで下さい。会長さんらしくありませんよ」
 スカートの裾をつまみ、会長さんの前に座り込む

 「せやかて」

 「呼んでくれてよかったです。もう、話す事もなくて困ってたの。顔上げて下さいってば」

 私と皇兄が兄妹だと言う事を、伝えなければ
 
 「会長さん!」

 会長さんからウチワを取り上げた

 「私、ずっと黙っていた事があってー」


 ポテッと私の頭の上に柔らかい物体が乗っかった

 「?」
 手で、物体を掴むとそれは黒皮の財布

 「晶、これで双葉と一緒に缶コーヒー買ってきてくれないか」

 見上げると、双葉さんを指差した皇兄が立っていた