橋の上から覗き込み、魚を探す

 「うそ、魚なんていないじゃないの」
 
 「昔は100匹以上いたんだよ。何処いっちゃったんだろう?」

 小学校から帰る途中に、給食で残したパンを千切って、この川の魚にあげてたっけ
 私、背が小さかったから、皇兄に身体を持ち上げてもらって川を覗いてた

 今は、あの頃より若干背も伸びだし、川だって皇兄がいなくても見ることが出来る

 ・・はず?
 この橋、以前より柵が高くなってる。新しく作り変えられたんだ

 「よっ」
 両手に力を入れて、自分の身体を持ち上げ、右足を柵の上にあげた

 この調子で、左足も乗せれば・・

 「ん?」

 スカートの裾が邪魔をして足があがらない
 ワンピースなんかにしなきゃよかった。絶対、私の後ろ姿、間抜けだろうなぁ

 そんな事を考えながら、なんとか橋の柵の上に登る事が出来た

 「お魚さんいる?」

 バランスを取りながら、橋の下を覗き込む
 
 キラリと魚のお腹が光るのが見えた

 「おぉ、双葉さん、お魚いた・・」

 「あきら!」
 
 「ふぇっ」
 双葉さんへ振り向いた瞬間、グラリとバランスが保てなくなり、私の身体が川の方に斜めに傾いて行った

 「もも!」 
 橋の真ん中から会長さんが走ってくるのが見える

 「この・・バカ!」
 私の両手が掴まれ、橋の方へと力強く引き寄せられると、黒色のシャツの人物の胸に顔をうずめた

 ふわりと香る、ミントの香り

 「バカ」
 もう一度、頭の中に響く
 
 バカって言われているのに、嬉しいなんて

 「皇・・」

 「もも!大丈夫やったか。こーちゃんも」

 私はすぐに皇兄から引き離され、会長さんに頭をなでられた

 「ケガないか?なんであんな無茶するんや」

 「平気です。それより」
 
 皇兄の方を見ると、双葉さんがハンカチを取り出して皇兄の服の汚れを落としていた

 「ちょっともも。皇紀先輩がケガをしたらどうするのよ」

 「ごめんなさい」
 
 皇兄・・ごめん

 「いいよ、双葉。お互いケガもなかったし、今度から気をつければいい事だ」
 皇兄は私の方を見ようとせず、乱れた服を整えた

 あぁ、そうか。皇兄は私と顔を合わせたくないんだよね

 「どうしたんや?もも・・やないな。ごめんな、今までほんまの名前を聞かんで。ちゃんと教えてくれるか?」

私の本当の名前・・・?

あぁ私、会長さんに自分の名前は『もも』じゃないと感情をぶつけてしまったんだ・・

会長さんが謝る事ではないのに

皇兄に気付かれたくなくて、ずっと本当のことを言わなかったのは私だから

でももう、隠す必要はないよ・・ね?

「私、私の名前はー」