「皇紀様、コーヒーになさりますか?」

 「あぁ」

 「皇紀様、お友達がお見えになっております」

 友達?

 「五十嵐・・いや、潤君の友達では?」

 「いえ、潤ぼっちゃまではなく、皇紀様でございます」

 五十嵐の家に住み始めて、10日を過ぎるが未だこの使用人達の話し方には慣れない

 五十嵐の友達という事で、大事にされているが、五十嵐が別館に移りたがる気持ちが良くわかった


 「客間の方にお通ししてございますので、そちらの方にコーヒーをお持ち致します」

 「お願いします」

 オレに友達など尋ねてくるはずがない
 第一、ここは五十嵐の家だ。オレがここに寝泊りしている事を知っているのは五十嵐しか知らないはず

 
 カチャリと扉を開けると、ウチワでパタパタを仰いで部屋を散策している沢村会長の姿があった

 「何、やってるんですか?会長」

 「よぉ、こーちゃん。うちも金持ってるけど、五十嵐の家は別格やな」
 
 グレーの縦縞の浴衣に身を包んだ会長は、ひと回り大きく見える

 「まさか、こーちゃんが五十嵐の家に居候してるやなんて思わんかった」

 「今日までですよ。今日、家に帰るつもりです」

 荷物を纏めていたら、呼び出されたのだ

 コーヒーが静かに置かれ、それを一口飲む
 さすがいい豆を使って、オレ好みの味

 「オレに何か用ですか?わざわざここまで来るには理由が」

 「やっぱり、忘れとる。一昨日祭りに行くゆうて、約束したやんか」

 約束って、あれは会長と双葉と五十嵐が勝手に決めた事ではないか

 「本当は『もも』と2人で行く予定だったんでしょう。オレが行ったら邪魔ですよ」

 「最初だけでええんや。俺とももが仲ようなったら、双葉と消えてええから」

 「・・・」
 何て、身勝手な
 まぁ、昨日みたいに落ち込まれるよりはいいけど

 「なぁ、こーちゃんも浴衣着ようや」

 「いや、オレはいいです。普段着で、第一浴衣なんて用意・・」

 つかつかと5人の使用人が部屋に現れると、テーブルの上に5種類の浴衣が置かれた

 「潤ぼっちゃまから、ご用意する様申しつかりました。どうぞお好きなのをお選びください」

 「・・・」
 
 どうしても、あいつは祭りに行かせたいらしい・・