「顔色いいじゃん。婦長達も安心してたよ」
 五十嵐がオレの顔をなぞり、息をついた

 「まぁ・・な。最近少しずつだが食べれるようになった。婦長さん達にも礼を言っといてくれ」

 2日前に食べたおにぎりから、少しずつだが食べ物が受け付けれるようになり、点滴の回数も、時間も徐々に減ってきている

 全快まではないが、体調はもどりつつあった

 「何?俺の方を見て?」
 五十嵐の方を見て固まっていオレに、五十嵐が首を傾けた

 「いや・・お前の助言がなかったら、まだ、点滴を打っていたんだと思ってな」

 「助言・・て、生徒会室で出された物は必ず食べろっていうあれ」
 ニッと悪戯っぽく笑う五十嵐

 「食べてよかったしょ。どんな味だった?」
 
 どんな・・味って。言ったら、笑われそうな気がする
 
 「なぁ、どんな味がした?」
 悪戯顔が更に増している

 「笑うなよ。晶の・・晶がにぎったおにぎりの味がした。塩加減とにぎり加減がそっくりで・・」
 特にあのにぎり加減だ。口に運ぼうとするかしないかで崩れ落ちていく柔らかさが、あいつのにぎり方にそっくりだった

 「うん。うん。それで、それで?」

 それでって?五十嵐はこの後、何を聞きたがっているのだろう?

 「他人の作った物が、晶の味だと判断した自分自身に驚いた」

 「へ?」

 「実際は、沢村会長の妹が作ったものらしくてな」

 「おま・・何言って・・・?いやへぇ、そうなんだ。まさかその沢村妹に惹かれ始めてなんてないよな」

 「・・正直、どうなのかわからない。晶と違って、安心して見ていられるのは事実だな」

 晶といると、ついつい、先を考えて行動してしまう癖がついていた
 ここで、あいつが転ぶのではないかとか、ドアに手を挟むのではないかとか常に心配して、好きなのに・・疲れている自分がいる

 「そうだよな。女はこいもちゃんだけじゃないしな。いい傾向なんじゃないか。俺、ちょっと用があるからここでな」
 五十嵐は手を振ると、去って行く

 「皇紀先輩!」
 五十嵐と入れ違いで、沢村双葉が皿におにぎりを乗せて、走ってきた
 晶と違って、転ぶという心配をしなくてもいい

 「先輩も今から生徒会室へ?」
 
 「あぁ、今日のおにぎりの具は?」

 「えーと、鳥そぼろです」
 
 本当に、ごく自然に会話出きるまでになっていた