「ももは優しいんやな」

 下駄箱まで送ってらう途中、会長さんが微笑んだ

 「そんな事ないです」

 ぷるぷると首を横に振ると、会長さんと繋いだ手の温もりに対し罪悪感を感じた

 さっき、皇兄と4日ぶりに会った

 会ったと言うべきか、姿を見たと言った方が正しい

 おにぎりを半分食べた皇兄は、机にうつ伏せて眠っていた

 皇兄への第一印象『やせた・・?ううん。やつれた』だった

 顔も青白く、ひと回り小さくなった気がして

 会えて、涙が出そうになった


 「あーあ。残念やなぁ。こーちゃんに紹介したかったのに」
 ぽつんと呟く会長さんの手を強く握り返す

 「予算の件が落ち着いてからでも遅くないと思いますよ。それに双葉さんの為にも」

 お願い。今、皇兄に知られるわけにはいかない
 私が・・近くにいる事を

 「せやな。双葉もこれを機にこーちゃんとうまく行くかもしれへんし」

 「・・・」

 目の前で・・皇兄と他の女の人の距離が近付いていくのを私は見ていられるのだろうか?

 縮まる事のない・・皇兄と私の距離

 「もう、ついてしもた」
 残念そうな会長さんの声に、我に返った

 「ほんま、送ってかんでええか?」

 「はい。大丈夫です」
 つないだ手を、少しずつ外していく

 「俺が大丈夫やないかも」

 トンッと下駄箱に背中を押し付けられ、肩を捕まれると、少し傾けた会長さんの顔が近付いてきた

 「目ぇ閉じや」
 
 キ・・キス!?

 
 『さようなら、会長』

 
 玄関に来た別の生徒が、会長さんに声をかけてきた

 「気ーつけて帰りー」
 会長さんは、ぴくぴくと顔を引きつらせ、笑顔で生徒を見送る

 「チッ。またや。ごっつうタイミング悪っ!」

 チュッと額にキスを落とされ、くしゃと頭を撫でられる

 「ほんま、気をつけて帰るんやで。もも、かわええから心配や」

 「そんな事は・・」
 自分の下駄箱を開けると、パサパサパサと封筒が落ちた

 「あ・・」
 私より早く、会長さんがそれを拾い上げた

 「ほら、これが証拠や。もっと自覚しぃ。目移りするんやないで」

 「は・・い」

 キュウと抱きしめられ、名残惜しそうに会長さんは私を離した

 抱きしめられながらも、皇兄を想っている時点で会長さんを裏切っている事になる