オレの目の前に、正三角形のおにぎりが並べられた

 「どーぞ」

 どーぞと言われても、胃の中に入る想像をするだけで気持ち悪くなる

 「食べれそうにないですか?」

 目を逸らすオレに、沢村双葉が問いかけた

 「ちょっと・・無理だな。作ってくれたのに悪いな」
 
 「え!?」

 「これ、あんたが作ったんだろ?」

 おにぎりは、ひとつひとつラップに丁寧に包まれている

 「ご飯があったので作ってみただけで、無理なら下げますね」

 「あぁ」

 うなづくと共に、チクンと左腕が疼いた
 点滴を打った場所だ・・

 看護士ではなく、五十嵐に処置してもらったのが悪かったのか?
 腕を押さえ、ふと五十嵐のおかしな言動を思い出した

 『生徒会室で出る、食べ物は必ず食べる事』
 
 いや、無理だって五十嵐

 『ひと口でいいから、騙されたと思って食べてみろ』

 わざわざ、結果が分かっていて、騙されに行く奴などいないだろう

 
 「神様より、俺の言う事を信じろ・・か」

 「何か言いました?」

 「いや、独り言」

 チクチクと疼く左腕を伸ばし、おにぎりを掴んだ

 かすかに、温かい

 「皇紀先輩・・?無理しないでいいですよ」

 彼女の言葉は耳に入らず、ラップをめくっていく

 五十嵐・・吐いたら恨むからな

 震える手で白の三角形の角を、口元に持っていく

 半分だけ巻かれてある、海苔の香りが気分を悪くする

 数日ぶりのご飯の粒が口の中に広がった

 薄い塩味で、何よりご飯のにぎりぐあいがしっかりしているようで、柔らかい

 「・・・この味・・」

 「美味しくない?吐き出していいですから」

 沢村双葉が、これを作ったんだよな・・?

 なのに、何で・・なぜ、こんな懐かしい味なんだ?

 この味、この握り方・・まるで晶が・・

 そんな事、絶対あるはずがないのに、なんで晶を思い出す?
 他人の作った物が、晶の味に感じるなんて、今まで絶対ありえなかった

 「まずい・・」
 早く、立ち直らないとこのままだと自分が壊れてしまう

 「まずいですか!!」

 「いや、おにぎりの事じゃなくて・・これ、うまいよ。ありがとう」
 もうひと口、口に運ぶ

 やっぱり、晶の味
 
 錯覚でも何でも、今は食べれた事に感謝しよう