「ちょっと、早く入って来なさいよ」
 沢村双葉に催促され、覚悟を決めて生徒会室に入った

 「その鍋はそっちのコンロへ」
 豚汁の入った鍋を、ミニキッチンのコンロに置いた

 生徒会室を見渡すが、皇兄の姿はなかった・・・けど、この前は隣の部屋の生徒会長室にいたのだ

 会長室のドアは閉まっている

 「あの・・私これで、帰ります」

 そそくさと、出口のドアへと進む私の制服の裾を、沢村双葉は掴むと会長室のドアを開けた

 「あの、私・・」
 物の様に部屋に放り投げられ、床に手をついた

 「オニイチャンをこんな風にして、責任取りなさいよ」
 
 お兄ちゃん・・て、皇兄はやっぱりこの部屋に・・どうしよう顔を上げられない
 
 4日ぶりに会うのに、もう1年以上も会っていない気がする

 どうしよう。なんて言う?『こんにちわ』うううん。やっぱり『ごめんなさい。家に帰ってきて』だよね

 うまく、落ち着いて言えるだろうか

 大きな手が私の両脇に伸びてきて、私を持ち上げた

 「皇にぃ・・ごめ」

 「『もも!』会いたかった」

 強く抱きしめられ、ふっと力が緩んだと思うと、私の額と会長さんの額がコツンとぶつかった

 「ケガないか?双葉にまた、いじめられたんか?」
 額に軽くキスされ、頬ずりされる

 「ちょっと、オニイチャン!いじめたってどう言う事よ。被害にあったのは私なのよ」

 お兄ちゃん・・て、沢村双葉にとって、お兄ちゃんは沢村会長の事なんだ。皇兄と勘違いしてしまった
 
 この部屋に、皇兄はいなかった

 「いい加減、離れたら?」

 「いやだ」
 ソファに座りながらも、私は会長に腕を組まれ、離してもらえなかった

 「離したら、また何処かにいってしまうかもしれへん」
 ギュゥと再度、抱きとめられ、息が出来なくなる

 「はい、はい。お邪魔虫は消えます」
 沢村双葉は呆れた様に両肩を上げ、立ち上がった

 「沢村さん」

 「双葉でいいわ。オニイチャンの事ヨロシク頼むわよ」

 よろしくって・・

 パタンと扉がしまる

 「ひゃっつ」
 会長さんの指が、私のうなじをなぞった

 「髪・・切ったんやな。それって、失恋したせいか?」

 「いえ・・その・・」
 
 言葉に詰まる。まさにその通りだからだ