「さく・・桜場!」

 桜場の身体を受止めたものの、重くて、私の身体も崩れ落ちそうになった

 「男を担ぐのは不本意だけど、仕方ない」

 最近聞いた声が頭の上ですると、桜場の脇がその男(ひと)に抱きかかえられた

 「ありがとうございます。・・あっ」

 声をあげた相手は、校則違反の取り消しをしてくれた2年の先輩だった

 「こんにちは。桜庭 晶チャン。久しぶりだね」

 久しぶりって言われても、特に親しいわけでもないのだけれど

 「4日前に会っていますけど」

 もちろん、違反を取り消してもらった日

 「4日も会ってなかったしょ」

 その前は、全然会った事もなかったはずですが

 「こんな・・奴、相手にする・・こと・・ない」
 桜場が薄目を開けて、首を振った

 「なんだお前、悪態をつける元気あるじゃん。手放すよん」

 「待って、お願い。このまま保健室まで運んで下さい」

 桜場は悪態はついているけど、身体は辛そう。特に目を開けていられないようだ

 「お願いです。先輩」

 「OK。俺も君に頼みたいことがあるから」

 先輩はウインクすると、桜場の身体を背負い一緒に保健室に向かった

 保健室のベットに桜場を置くと、すぐに腕をとられ、学校の調理室に連れて行かれた

 「な・何なんですか?」
 
 「ここを借りる手配はしてあるから、自由に使っていいよ」

 いいよ。って突然言われても、何の事かさっぱりわからない

 「あの・・私に料理を作れという事ですか?」
 まさか、調理室に来て歌を歌えとかはないだろうけれど

 「察しがいいね」

 
 キーンコーンと5時間目が始まるチャイムが鳴る
 次は、現代国語の時間

 「教室に戻らないと。私なんかより、もっと料理の上手な人いますよ。調理クラブの人にお願いした方が確実だと思います」

 「君じゃないとダメなんだ」

 「え?」
 
 「いや・・うちのシェフの味も口に合わないらしくて、ごく普通の家庭の味なら食べれるかなぁって」

 遠巻きに、私の家が一般並だと言いたいのだろうか?
 それにしたって、私じゃなくてもいいはず

 「本当に、お願い。でないと死んじゃう」
 両手を頭の上にあげ、合掌すると、先輩は頭を下げた

 死ぬって、また大袈裟な

 「えっと・・」
 先輩は頭を下げたまま、動かない