「今日は、会長の姿が見えないが休みなのか?」

 生徒会室に入り浸っているはずの、会長の姿が見えない
 
 「オニイチャン?学校には来てますよ。今、『もも』 に夢中みたいで、会いに行くって言ってましたけど」

 会長は、自称 『もも』 と呼んでいる女に恋をしているらしい
 その割りには、本名も聞いていないという、おもしろい面もあるが、彼女しか見えていないのだろう

 その情熱を、生徒会の仕事にも向けてくれれば、少しは楽になるのだが・・

 「何からお手伝いすればいいですか?」

 「あぁ、じゃぁ」

 仕事を指示する途中に携帯の着信音が鳴った

 五十嵐からか?ポケットから携帯を取出すが、着信音はオレの携帯ではなく、沢村双葉の携帯だった

 「オニイチャンからだ」
 画面を見ながら、彼女はつぶやく

 「もしもし、え?何で私が?だって悪いのはあの子でしょ。ちょっと、わかったわよ。行けばいいんでしょ!」
 電話の内容に納得がいかない彼女は、携帯電話を切ると床に叩き付けそうになった

 「少し落ち着けよ。会長なんだって?」

 「連体責任だから、お前も掃除に来いって。絶対『もも』に振られたのよ。私に八つ当たりする事ないのに!」

 言いながら、オレの方を見ると『行って来てもいいですか?』とため息混じりに聞いてきた

 怒りながらも、結局会長の所へ行こうとする姿勢。なかなかカワイイ所もあるじゃないか

 「行ってやれよ。今日はオレも帰るから」

 「え?私のせいで帰るのなら、行きません」

 「別に、あんたのせいじゃない。会長にもそう伝えておいてくれ」

 沢村(妹)と別れ、学校の門を出ると、五十嵐に携帯をかける
 さっきの言葉の濁し方が、気になった

 今度の五十嵐は、ワンコールで出た

 「あっ、皇紀。丁度電話するところだった。俺言い忘れてさぁ、皇紀の泊まるとこ本館になってるから」

 「は?」
 
 「皇紀がいつも来る部屋は、右別館になるから、間違ってそっちに行くなよ」

 「本館、別館・・て旅館か?お前の家は?」

 「似たようなもんだよ。俺も何年ぶりに本館に泊まるからさぁ。じゃ、そういう事で待ってるよん」
 
 オレの用件を聞かずに一方的に切っていった

 そう言えばあいつが、途中から本館と呼ばれる家に帰らなくなったのはオレと知り合って間もなくの頃だった