遅い
 五十嵐は、晶の違反を取り消しに行くと言って、1時間は過ぎている
 2年の校舎から、1年の校舎までは10分はかからない

 ホームルームが終わって直ぐに向ったはずなのだから、そろそろ連絡が来てもいいはずだ

 「あいつ・・晶に余計な事を言っているんじゃないだろうな」

 生徒会長室の黒のレザーで作られた、椅子に深く腰をかけ、携帯電話を取り出す
 
 五十嵐の携帯番号しか、登録されていないから、ボタンひとつで繋がる

 P。ボタンを押すと、TRRRと4回コールでも出る気配がない。いつもなら2コールで出る早さなのにだ

 「あいつ・・」
 オレから、五十嵐にお願いしているとは言え、晶の事になるとイライラする

 
 「五十嵐!晶は?」
 携帯に出た途端、何も言わさずストレートに尋ねた
 
 『あぁ、ようやく見つけた』
 少し疲れ気味の声の様だが・・

 「取り消したんだろうな」

 『ちゃんと取り消したって』

 なら・・よかった。これで晶は髪を黒く染めなくても済む
 風紀の顧問にも話を着けたし、風紀委員長は不服そうだったが、何とか言い包めて、納得させた
 但し、容姿維持申請届を一週間以内に提出という条件だったが、それは仕方のない事だろう

 「用がすんだんなら、さっさと戻って来い。まさか、余計な事を言ったり、晶に変な事をしてないだろうな」

 『言ってないし、してないって』
 五十嵐からは、即答で返事が返ってくるのを聞くと、その通りなのだろう

 『ただ・・・』
 安堵するオレの耳に嫌なニュアンスの声を出した

 「ただ・・何だ?」
 
 『・・いや微妙に・・』

 「何だ?はっきり言えよ」
五十嵐にしては、歯切れが悪い

 『・・そう何でもない。今、隣にいるんだよ』
 
 いるって、晶がか?

 『結果は後でゆっくり、じゃぁ』
 瞬く間に、携帯が切れ、ツーツーツーという信号音だけが残る

 五十嵐はいったい、何を言いたかったんだ?

 携帯をしまうと同時にコンコンとドアがノックされ、沢村会長の妹、沢村双葉が入ってきた

 「あんた、まだ来るつもり?」

 「ひどーい先輩。予算の件を手伝い終えたら、キスしてくれる約束です」

 それは、お前が勝手に決めた事だろう

ため息をつき、オレは別の記憶を仰ぐ

 「約束・・か」
 
 あの時・・晶との夕飯の約束をオレが守っていたら、今頃はどうなっていたのだろうか