「じゃぁ、ちゃんと取り消したからね。君とは今度ゆっくり、邪魔な奴がいないときにね」

 邪魔と呼ばれた桜場は、ふんっとソッポを向いた

 「ちょっと、待って下さい」

 立ち去ろうとする、先輩の後ろの制服を掴む

 違反が取り消されたのは、嬉しいけど、消される理由がわからない

 「なーに?」

 「取り消される理由がわからないんです」

 「そんなの、違反していないからでしょ」

 余りにも、あっさりと答えが返ってきて、言葉につまった

 そりゃぁ、違反はしていないけど・・私が聞きたいのはそんな事じゃなくて

 「どうして違反していないと判ったんですか?いくら言っても信じてもらえなかったのに」

 「あー、それ。風紀委員もバカじゃないから君の言う事を確認してみたんだ。嫌な思いさせてごめんね。今度お詫びするから許してくれる?」

 右手の甲が先輩の口元に持っていかれ、キスされそうになる瞬間、携帯の着信音が鳴った
 先輩の動作が止まり、『ちっ』と舌打ちすると、携帯を取り出した

 「ちょっと失礼」

 笑顔で私に背を向けると、携帯電話で話し始めた

 [あぁ、ようやく見つけた。ちゃんと取り消したって]

 先輩はコリコリと頭をかいている。そしてチラッと私の方を見た

 [言ってないし、してないって。ただ・・・いや微妙に・・そう何でもない。今、隣にいるんだよ。結果は後でゆっくり、じゃぁ]

 プツッと携帯が一方的に切ったように見えた
 隣にいるって、私の事?

 「はぁ、ごめん。こいつタイミングが悪くてさぁ」

 「いえ、私の方こそ引き止めてしまって。ただ、もう1つだけ教えてください。私の髪の件を誰に確認したんですか?」

 なんとなく、いや、多分そうなんだろうと

 「俺からも質問。どうして、髪切っちゃったの?違反だといわれたせい?」

 「はい、本当は黒くしようとしたんですが、出来なくて」

 「髪を切っていたのは誤算だったけど、染めてなくてよかったよ。いや、ほんと」

 「あの、私の質問・・」

 「あのさ、髪を切った理由、違反を指摘されたせいだと言わないでくれる?」

 「え?」

 「俺も色々大変なんだよ。そうだ、イメチェンしてみたってことにしておこう」

 「はぁ・・」
 一方的に言われ、うなずくしかなく、先輩は去って行った