そわそわ、もぞもぞ
 鏡越しに見る桜場は、そういう擬音がピッタリなくらい態度が落ち着かない

 「クス」
 声を立てないで笑っていると、『晶ちゃんの彼氏?』と美容院のお姉さんが訪ねてきた

 「違います!親友です」

 慌てて否定する私に鏡の中の桜場も、うん。うんと相槌をうっている

 私の通う美容院は、女性客がほとんど
 今日は平日、夕方なのでお客も少ないけど、唯一男の桜場は目立つ
 本人もそう思っているのか、足を組み替えたり、頭をかいてみたりしながら、私のほうをちらちら見てくる

 
 「桜場、あと一時間くらいはかかるから、外で時間潰してきてもいいよ」
 
 私の声を待ってたとばかりと『そうか!』と声と共に立ち上がった

 「俺の携帯番号教えておくから、終わったら連絡くれよ」
 
 「わかった」
 番号を書いたメモを受取り、目線で桜場を見送る

 「やっぱりここは、男の子に落ち着かない場所なのね」
 お姉さんの言葉に、私もうなづいた

 「ですね。特に待っているだけなら尚更」

 「あら、でも一人だけこの雰囲気に飲まれずに、楽しんで待っている男の子がいたわねぇ。晶ちゃんが初めてこの店に来たとき、生意気に彼氏連れかと思ったものよ」

 「え?!私」

 シャンプーの洗面台に移り、髪をワシャワシャと洗われると、ふかふかのタオルで叩くように髪を拭かれた

 「私、彼氏なんて連れてきてませんよ」
 初めて店に来たのは、小学校最後の春休みだったと思う
 
 中学に行く前に、髪を揃えておきたくて、ここに来たはずだ

 「私らが勝手に、彼氏だと思ってしまったの。ほら、髪の色も雰囲気も似ていなし、彼の方が大人っぽく見えたから。でも実際は晶ちゃんとは、1つしか違わないと聞いてビックリしたわ」

 さっき、桜場の座っていたソファの横に、カウンター席がある
 その丸椅子に足を組んで、コーヒーを飲む皇兄の姿が浮かんできた

 その日は、土曜日のお昼前で、今よりお客が多かった
 私の順番を待つのと、シャンプー、カット、トリートメントだけで3時間以上はかかったはずだ

 「髪を切る手さばきを見るのが好きだと、晶ちゃんの方を見ていたのが印象的で、お兄さんは元気?」

 「えぇ」
 初めての美容院・・一人で行く勇気がなくて、無理やり皇兄に付き合ってもらったんだ