『にわ』
 入学して、出会ったときから、そう呼ばれていた

 名字が同じで、紛らわしいが為に桜場が勝手に決めたあだ名

 「聖二(せいじ)お前も、そう呼んでいいから」

 「誰?せいじって」

 「俺」

 突然、名前で呼んで良いって言われても・・『晶』と呼び捨てされるのさえ、慣れていないのに

 それに・・『しばらくはお前とは話したくない』と言われたのを思い出した

 今朝の私の態度で、怒らせたはず

 「晶、聞いてる?」

 ポンッと頭を小突かれ、我に返る

 「えっと、名前で呼ぶんだっけ?」

 「違~う。聞いてねぇじゃん。今日、17時過ぎにもう一度、風紀に掛け合おうって話」

 「桜場の違反3つになった事だね」

 「お前、ボケてんの?お前の髪のだよ、髪。今朝は俺もカッとなって、お前が止めてくれなかったら、マジやばかった。サンキュな」

 ズキン。ちくちくと、心が痛い
 違うよ。桜場
 桜場を止めたのは、私が皇兄の妹だと言われたくなかっただけ
 私のワガママなんだよ

 お礼なんて言われると・・なんて言っていいのか・・

 
 「また、そんな顔をする」
 両頬をつままれ、両側に引っ張られた

 「ふに・・しゃくらば」

 「面白い顔。やっぱ、こっちの方が似合うな」

 どういう意味よ
 ムッとする私に、桜場が笑いかける

 「ダチには笑っていてほしいだろ。男と女の友情は無いという奴もいるけど、俺はあると思うんだよな。晶もそう思うだろ」

 「あ・・あぁ」

 「だよな。お前とは気が合うと思ってたんだ。ダチだと認識したら、なんかスッキリしてさ。改めて宜しくな」

 上着で右手を拭い、私の前に手の平が差し出される

 「こちらこそ」
 同じく私も手を拭うと、桜場の手に重ねた

 
 放課後・・一人で行こうと思ってたんだけど、やっぱり一人だと決心が鈍りそう

 「桜場、お願いがあるんだけど」

 「何だ?」

 「今日午後の授業さぼって、美容院に付き合ってほしいんだけど」
 これは、吹っ切る儀式

 「美容院って、髪の件は一緒に風紀に掛け合いに行くって言ったろ」

 「うん。もちろん一緒に行くよ。でも、その前に美容院に行きたいの」

 忘れる
 皇兄に抱いた、恋心を髪と一緒に置いて来る

 「お願い。ダチなんでしょ。聖二」