「あれ?クラスの奴らがいねぇ。ま、いいか。座れよ晶」

 ん・・・なんだろう?妙な違和感を感じつつ、椅子に腰掛ける

 クラスのみんなは只今、調理実習室でお食事中。どうやら桜場はその事を忘れているみたい

 「膝と手首」

 言われた箇所を見ると、薄っすら血が滲み出ていた

 「まさか・・もう使う事になるとは」

 諦めに似た呟きと共に、桜場のポケットから携帯消毒液と絆創膏が取り出され、シュッと消毒、ペタッと絆創膏が貼られた

 「ありがと・・すごいね。そんなのちゃんと準備してるんだ。まるで・・」

 まるで、皇兄みたいだと言いそうになって、言葉を止めた

 「なんだよ。途中で止めるなよな」

 「ごめん」

 桜場・・ケンカをしたって聞いたけど、誰としたの?

 相手は・・皇兄?

 訊きたいけど・・

 「桜場こそ、怪我大丈夫なの?」

 肘の包帯が痛々しい

 「あぁ、これか?良いっていったのに、あの人が大袈裟なんだよ。俺より、相手の方が酷いって言うのにな」

 「あ・相手って・・誰?その人は大丈夫なの?」

 相手の方が酷いと聞いて、思わず声が出た

 「お前、俺より相手の心配で来たわけ?」

 桜場は体操着を脱ぎ捨て、制服に着替え始めた

 「・・桜場の事も心配で、相手が2年生だと聞いたからその・・」

 「相手が2年1組だと聞いたからだろ?」

 「う・・」

 図星★

 「下も着替えるから、向こう向いてろ」

 「うん」

 「安心しろ。相手はお前が思っている人じゃない」

 「ホント!皇兄じゃぁ、キャッ」

 思わず、振り向いた先には、桜場のトランクス姿

 柄は、赤のストライプ

 「この、バカ晶!」
 まただ・・。この違和感

 「ごっごめん。でも、これでお相子だね。私もさっき見られたし・・あっ!」

 声を上げ、振り返る。桜場はまだトランクス姿

 「だから、こっち向くなって」

 「桜場・・」

 「なんだよ」

 「私の事、『にわ』じゃなくて『晶』って呼んだ!?」

 違和感の正体。今まで桜場には名前で呼ばれた事がなかった

 「ね、『晶』って呼んだよね?」

 詰め寄る私に、桜場が後退する

 「頼むから、ズボンを履かせてくれ」

 それも、そうだ。クルリとまた、方向転換
 シュルっと桜場がベルトをかける音が響く