泣き虫晶。これから先、本当につらい事で泣く時まで、些細な悲しみがお前に来ないよう、オレが防波堤になろう

 その為には、大人が認める地位を築き上げ、学歴も常に上位、学級委員も進んでこなし、目上の人の前では従順な子供を演じよう


 あの時、お風呂場で、カタカタと震えている晶の肩を抱き寄せ、守ってやると誓ったんだ




 「皇紀?」

 五十嵐の呼ぶ声に、決意した昔から目が覚めた

 「五十嵐・・オレって優等生?」

 オレの問いに、キョトンとした顔をする五十嵐

 「俺以外の所では、そういう風になってるみたいですねぇ」

 お前の前でまで、猫をかぶってられるか

 「五十嵐、頼みがある」

 「何?何?王子様に忠誠を誓っている、家来に何でも言って」

 目を輝かせ、次のオレの言葉を待っている五十嵐

 「風紀の顧問と風紀委員長にはオレから話をつけておく。だから、お前は晶の所に行って、違反を取り消して来てほしい」

 「はーい。でも、あのお堅い風紀委員長を説き伏せるのは大変かもよ」

 「だから、風紀の顧問から責める。思い出したよ。何の為に優等生を演じてきたか」
 すべては、こういう時の為。バカな大人を信用させるには、優等生という肩書きがあればいい

 「何だ?気持ち悪いな」
 五十嵐が食い入るようにオレに視線を送ってきている

 「いや、そうやって、外では優等生、家では好きな女の兄を演じていると思ったら、ほんとの皇紀は何処にいるんだろって」

 本当のオレ?

 唯一、五十嵐の前では、自分を出す事が出来て助かっているのだが、折角心配してくれている事だ。その事は伏せておこう

 「オレの事はいいから、晶の事を宜しく頼むな」

 「そうだった。俺、こいもちゃんとはお初なんだ。なんだか緊張してきた」

 なんで、お前が緊張するんだか

 「なぁ皇紀、もしもだよ。俺がこいもちゃんと恋に落ちたり・・」

 「何が言いたい」

 「嘘、嘘。冗談。そんなに睨むなって。見ろ、鳥肌たっただろ」

 「いいな。絶対、晶には余計な事は言うな。お前はただ、風紀の使いで違反を取り消しに行くだけ。オレの名前も出すなよ」

 「わかった・・よ」
 しぶしぶ声で、返事をする五十嵐を横目に

 キーン・コーンと4時間目の終了のチャイムが鳴った