「お前ら~。次、体育だぜ」

 「あー俺と、皇紀パスな。適当に言っといて」
 クラスメイトの誘いに、五十嵐がひらひらと手を振って答えた

 「勝手にパスしたけど、よかったしょ」
 五十嵐の問いに、軽くうなづくも、すぐに机にうつ伏せた

 「あのさぁ、後で後悔するんなら、あんな事言わなきゃいいしょ」

 「・・・」

 「はぁ・・いったい、王子様はどうすれば立ち直るんですか?」

 「五十嵐・・オレ、最低だな」

 「まっ・・1年坊主に嫉妬して、肝心のお姫様の事を全然考えてなかったからな。あの1年坊主の言葉のほうが聞いてて気持ちよかったし」

 晶の髪を守ろうとする、桜場の言葉はオレの胸にも響いた

 「いいのか?このままだとお姫様、髪を黒く染めてくるよ。俺が言わなくても、皇紀が1番わかってると思うけど」

 あぁ、わかっている

 晶の、凛とした瞳は・・覚悟を決めた時のものだ




 『皇兄、どうして晶の髪は黒くないの?』

 小学4年の時に、晶がオレに投げかけた質問

 晶の髪が特に目立ち始めてきたのは、その頃辺りからだ
 オレ所にも、色々ウワサが入ってきていた
 
 “あんな色に染めて、親は何をかんがえているのか”

 “子供が可愛そう”

  などの批難や同情の声。それを父兄たちが言っているのだから性質が悪い

 『また、誰かに何か言われたのか?』

 公園のコンクリートで作られた洞穴の中で、膝を抱えている晶の姿を見つけ出すと、隣に腰掛けた

 ここは、辛い事や悲しい事があった時に、晶が逃げ出す場所

 他人の言う事など気にするなと、何度晶に言っただろう

 『みんな・・晶が、もらわれっ子だって。皇兄の妹じゃないって。だから晶・・晶ね』

 コツンと足元に、床についていた手に堅いものが当たった

 拾い上げると、墨と書かれてあるプラツチック容器と黒色の絵の具

 『まさか!?お前!』

 晶の髪に触れると、どろどろとした黒い液体が滴り落ちた

 『何てことしたんだ!』

 急いで晶を家に連れ帰り、風呂場でまだらになった晶の髪を洗い流す
 
 『もう、こんなバカな事・・』

 『それでも、黒くしたら皇兄の妹だって・・』

 黒く染まったお湯が、排水口に流れていくのを見ながら、晶が大粒の涙を流していたのを今でも鮮明に覚えている