「母さん、行ってくる」

オレは取る物もとらず、家を飛び出していた

頭の中で、母さんの言葉がこだまする

『晶ちゃん、きっと好きな人が出来たのよ』

好きな奴って冗談だろ?

『朝一で差入れあげるみたいよ』

差入れって・・何を・・

「ゲホッ ゲホッ ハァ、ハァ、ハァ」
 
体力の限界まで走って、次第に速度が落ちていった
 
額からこめかみを伝い、汗がシャツの中に流れ込んでくるのが解かる

「ハァ、ハァ、・・けんな」

握った掌に爪が突き刺さる

「・・ふざけんな!」

ふざけんなよ。晶・・・・・

ズルズルと電信柱に寄りかかりながら、身体が地面に崩れ落ちる

オレに・・オレに、名前も知らない男に差入れするチーズケーキの味見をさせたのかよ

『 どうしても今日味見してもらいたかったの 』

『 ありがと。皇兄 』

昨日の晶の言葉を思い出す

あぁ、道理でオレに味見をせかしたわけだ

すべてはこの時のために

喉の奥から熱いものが込み上げてくる

走ったって、もう晶には追いつけない

追いついても、何も出来ない




「こ・う・き 何こんな所で、座り込んでんだよ」

「・・・・るせ」

「汗だくで、青春日記でもしてるつもり?似合わねー」

「うるさい」

オレにかまうな

「立てよ」

五十嵐はオレの腕を掴み、引き上げた

「あーぁ、折角の美形が台無しだな。俺の部屋来いよ、そのカッコじゃ学校行けないだろ」

のろのろと引きずられる様に、五十嵐の部屋に連れて行かれた

「着替えろよ。一人で出来ないんなら、俺が着替えさせてやろうか?」

五十嵐は悪戯っぽく笑った

「自分でやる」

俺はネクタイを外すと、シャツを脱ぎ捨て、真新しいシャツに着替える

「何があったか知らないけど、皇紀らくしねーんじゃねぇの?」

窓の桟に腰掛け、片膝をかかえた五十嵐は目を細めてオレを見た

「オレらしいって、なんだよ」

「少なくとも、俺の知ってる皇紀は、手に入れられないものは無い絶対的な自信があって、最初から諦めない奴って事」

「何が言いたい?」

「上手く言えないけど、最近、守りに入ってばっかで、攻めてないんじゃねーの??」

五十嵐は肩をすくめ、窓の外を見た