調理実習は、一向に進む事なく、言わば私の周りは、皇兄の写メの発表会と化していた

 「萌ちゃん、皇兄ってこんなに人気あるの?」

 「今頃気付いたの?まぁ、火がついたのは臨時で生物の授業をしてくれた時かな。晶は途中で抜けたからね」

 知ってるよ萌ちゃん
 学校では受けられなかったけど、私の部屋で個人授業してもらったもの
 皇兄は人に教える時、難しい言葉は使わない。言葉もやわらかく解かり易い。・・けど、私は子守唄替わりにしてしまったけど

 「ねぇ、知ってる?皇紀先輩さぁ、学校の門をくぐると絶対私達の教室の方向を見るんだよね」
 とクラスメイトの一人が言い出すと

 「あぁ、知ってる。その時の秘蔵の写メがあるの」
 ・・と別の子が携帯を取り出した

 秘蔵と聞いて、皆が身を乗り出して、写メを覗く。そして『おぉっ』と歓声があがった

 軽く握った手を口元に当て、目を細めて笑っている皇兄の顔だった

 「ちょっと、皇紀スマイルじゃない」

 こ・・皇紀スマイル?

 「皇紀先輩の笑顔って滅多に見られないのに良く撮れたわね」
 感心の声が上がる

 「偶然。ほら、丁度この時さぁ、誰か窓から黒板消しを叩いてて、その消しカスがそのまま窓に入ってきてさ、本人が真っ白になってたの。その様子をたまたま、皇紀先輩が見ててその時のショット」

 「ぷぷっ」
 と私の横で萌ちゃんが噴出した。萌ちゃんは覚えてるみたい。その黒板消しを叩いていたのが、私だと言う事を


 そっか、この皇兄の笑顔は、私を見て笑ってるんだね

 目を細めて・・

 『カワイイよ。晶』
 
 どうしよう。思い出しちゃう

 『化粧しなくても、痣なんて隠さなくても、お前カワイイよ』

 ケンカして、顔に痣を作った私に、言ってくれた皇兄の言葉

 『このまま、お前を連れ去りたい』

 そう言って、私を抱き寄せてくれた皇兄

 なん・・で、なんであの時、皇兄と一緒に行かなかったのだろう
 
 お母さんを振り切ってでも、一緒に行けばよかった

 そしたら、公園であんな場面を見なくても済んだし、こんな気持ちに気付かないで済んだのに・・どうして・・

 周りのみんなは、自由に皇兄に恋してる

 でも、私はその恋のスタートラインに立つ事も許されないのだ

 近いのに、最も遠い立場の『妹』だから