「では、3日以内に髪の色を元に戻してきなさい」

 ポンと生徒手帳に違反のハンコを押され、私達は風紀委員から解放された

 「まさか、皇兄が風紀やってるなんて思わなかったね」

 つとめて、明るく桜場に話しかける

 「・・・・」

 桜場は無言で、バスケットコートへ向かって歩いていた

 怒ってる・・よね

 私の髪の為に、自分の事の様に怒ってくれた桜場

 それを、私はぶち壊したんだもの

 私はダッシュして、コートの側にあるベンチに走った

 ベンチに置き忘れてある、桜場の上着を拾い上げ、埃を払うと後から来た桜場に渡した

 「お前は・・本当にそれでいいのかよ」

 「髪の色、元に戻しなさいって言われちゃったけど、私の元の色ってどんな色だと思う?」

 お父さんの先々代の祖父が英国の血筋ではなかったら、もうすこしお母さんの血筋が強かったら、皇兄の様な、艶やかな黒髪になっていたのだろうか?

 「そんなの、知らねぇよ。お前が黒くしたけりゃすればいい。俺が訊いているのは、嘘つき呼ばわりされて、お前悔しくないのかよ」

 「それは・・」

 「俺は、悔しいし、すげぇムカつく。だからこんな事になって、笑っているお前も、あの状況でお前を助けない皇先輩も信じられない」

 桜場はぶっきらぼうにネクタイを締めると、上着は着ずに肩に羽織った

 「悪いけどさ俺、しばらくお前とは話したくない。先、行くわ」

 「さく・・」

 桜場の真っ直ぐな性格では、どうしても許せなかったのだろう

 ごめんね。ごめんね桜場

 でも・・桜場と皇兄が私のことで、険悪な関係になるのを見るのが耐えられなかったの

 皇兄にも、余計な迷惑はかけたくなかった
 
 本当にそれだけなの・・私?

 あの時・・・桜場が、私が皇兄の妹だと叫ぼうとした瞬間

 すごく、すごく嫌だったの

 妹だって言われる事が・・嫌だった

 兄に恋してると気付いた途端、自分にこんな感情が生まれるなんて思ってもみなかった

 「髪・・染めたら・・」
 
 自分の髪をつまんで持ち上げる

 この髪を染めたら、少しはふっきれる事が出来て、皇兄の妹に戻ることが出来るだろうか