「先輩、私を見てください。違反してると思うんです」

 「じゃぁ、生徒手帳を出して」
 このやりとりを、ここに座って何回こなしただろう

 最初の風紀委員長の話とは大分状況が違ってきている
 当初の話では、違反を隠してくるのが大半だと聞いたが、来る生徒のほとんどが、違反を自己申告してきていた

 楽といえは楽なんだが、検査の為に並んでいる列の長さを見ると、頭が痛くなる

 「五十嵐、生徒会で風紀委員の人数を増やす様、提案しようか?」
 隣にいる五十嵐に、耳打ちする

 「してもかまわないけど、無意味だぜ」

 「何で?この人数では、捌けないだろ」
 だから、増やそうと言って・・・どうも何か五十嵐の様子がおかしい

 「お前、何か隠してるだろ」

 「んーまぁ、皇紀の人気が予想以上で、俺も捌ききれなくてさぁ」
 何を捌き切れないと?

 「どーせ、やるなら、一気に済ませた方が楽だと思って」
 だから、何を・・だ?

 「皇紀に直接会って、告りたいなら、今朝がチャンスだと・・」

 「言ったのか!!」

 「言ったんじゃなくて、SNSに流した」

 どっちも一緒だろうが!!
 じゃぁ、オレ側についている列のすべてが・・
 最後尾が見えない

 道理で、さっきから、手を握られたり、生徒手帳にオレのサインを書いてくれなど、意味不明な要望が多かった訳だ

 「ふざけるな。オレは戻る!」

 勢い良く立ち上がったオレに

 『こいつの髪はもとからこの色だ!』

 という怒鳴り声が入ってきた

 この声・・どこかで? 考え込むオレの腕を、五十嵐が掴み元の席に腰掛けさせられた

 「なーに、ヤローの声に反応してんの?皇紀の相手は、こちらのレディ達でしょ」

 「あ・・あぁ」

 何だ・・?何か引っ掛かる
 声がしたのは、オレとは反対の左端の列からだ

 くそっ、オレの周りの女子生徒のせいで、見る事もままならない
 あの声の後も、何だかもめている雰囲気は掴めるのだが、内容までは聞き取れなかった

 「五十嵐、お前の隣の隣、何かもめてないか?」
 
 「んー?」
 五十嵐は体勢を斜めにし、オレの言う方向を覗き込んだ

 「1年だな、浅黒いナマイキそうな男と・・ほー」

 「ほーって何だ?その続きを言えよ」

 「その横に、マロンショコラ色の髪の女の子」