はぁ、最近涙腺が弱くなり、すぐに落涙しそうになる

 大声を上げて泣けたら、スッキリするのだろうが、我慢をしてしまうせいで鼻の奥がツンと痛い

 学校についてすぐ、洗面所に向かうと、鏡で顔を確認した

 「これなら・・まぁ」

 大丈夫だろう。朝一で五十嵐に頼みごとをしなければならない

 『今日から、泊めてくれ』・・と

 不本意だが、黙って泊めてくれそうなのはあいつしかいない

 『黙って』・・は泊めてくれる訳ないか。絶対、理由を訊いてくるに違いない

 とりあえず、教室に戻ってどう切り出すか、考えるか
 五十嵐が登校してくるには、まだ時間がある

 「あ・・お前・・」

 教室に入ると、いないはずの五十嵐がネクタイを調え、風紀委員のワッペンを左腕にはめている所だった

 「はよー。皇紀、早いね、いつもそうなの?」
 五十嵐は、両手を上に挙げ背伸びする

 「あぁ、お前こそ」
 晶と顔を合わせたくないから、最近は早く登校しているとは言えないだろう

 「昨日急に、風紀の抜打ち検査が決まってさ。せっかく、彼女とモーニングコーヒーを楽しもうと思ってたのに、ついてない」

 「お前・・風紀委員だったのか?」
 こいつが・・一番、風紀を乱していると思うが・・

 「そうよ、似合ってるっしょ」
 
 「そ・・そうだな」
 なんとか、うなづくも・・目線は合わせない

 「フッ、正直な奴。じゃぁ、俺、行くよんっ」

 教室を出て行く、五十嵐の後を急いで追いかけた

 「五十嵐」

 「なーに?」
 五十嵐はオレが何か言いたげな事を知っているみたいだ

 「今日から、しばらくお前の家に泊めてほしい。雨・風さえ凌げれば、後は何とかするから」

 「いいよ。今日からだな、家に電話しとくよ。それだけ?」

 「あ・・あぁ」
 五十嵐の事だから、てっきり深く追求してくるかと構えていたが、ちょっと拍子抜け

 「じゃぁ、代わりに何だけど、はい」

 ボーっと突っ立っているオレの手の平に、ポンッと風紀委員のワッペンが置かれた

 「は?」
 オレにこれをどうしろと?

 「一緒にやってくれるよな。風紀委員」

 「え?」
 冗談はやめてくれ・・とは言えず

 「解かった」
 と渋々、返事をした

 だから五十嵐は、理由を訊かずに、即答の返事をくれたのだ