「ありがとね、桜場」

 必要分の鶏肉が手に入り、自転車で学校へ逆戻り

 「気にするなって、俺もお昼が懸かってんだ」

 ありがとうの意味は、鶏肉の事だけじゃないんだけど
 桜場は気付いているのか、いないのか
 でも、本当にありがとね

 桜場の背中は、広くて、温かくて、抱き枕のように心地良い

 真新しいTシャツには、私の涙のあとがくっきり付いている

 「やばいっ!『にわ』降りろ」
 キキー!とブレーキの音が鳴ると、自転車は煙を立てて止まった

 「痛たた。急に、どうしたの?」
 突然の事に、尾てい骨を激しく打った

 「校門見ろよ。風紀の抜打ち検査だ」
 
 校門を見ると、登校した生徒達が足止めを喰らって、立ち往生していた

 「やべ・・」

 「どうしたの?」

 「俺、上着とネクタイ、バスケコートのベンチに忘れてきた」

 うちの校則は、ネクタイの長さ、スカート丈、指定くつ下着用など以外に厳しく指定されている

 桜場の姿をみれば、制服のズボンにTシャツ姿

 「私のせいだね。鶏肉を買いにいかなきゃ、検査にも引っかからなかったのに」
 
 「お前の悪い癖は、すぐに自分のせいにして責任を感じてしまうとこだな。まぁ、鶏肉を忘れたのはお前だけど、上着を置いてきたのは、俺自身」
 
 ニッと私に笑いかけ、桜場は制服のポッケから生徒手帳を取り出した

 「しゃぁない。これにハンコ押されに行きますか」

 遅刻や、制服の違反をすると、生徒手帳に違反のハンコを押される。それが3つたまると、それなりの罰が与えられる訳で・・

 「でも桜場、今日押されたら、3つだよ」

 「ゲッ」

 「今、やっぱり私のせいだと思ったでしょ」

 「おっ思うわけ・・3つかぁ」
 
 先程の勢いは何処へ行ったのやら

 「行こっか」
 桜場の手を取り、校門をくぐると、そこは不思議な光景だった

 「なに?これ」
 
 門に平行に置かれたテーブルに、風紀委員が4人並んでいるんだけど・・
右半分側に生徒が集中している

 詳しく言えば、女子生徒が群がっていると表現した方がいいのかもしれない

 「なんだろうね?」

 「さぁな。俺達は空いてるほうに行こうぜ」

 「うん」
 
 鶏肉も早く冷蔵庫に入れたいし、私達は空いている左側の列についた