ガシャン

 バスケットボールが金網に当たり、タン・タン・タンと跳ねて私の足元に転がってきた

 「今日のお昼は、親・子・丼♪」
 ・・という鼻歌交じりでボールを拾いに来たのは、クラスメイトの桜場

 「オッス。早いじゃんよ。お前にしては」

 「桜場もね」
 
 ここは、校庭内にあるバスケットコート
 私はその側にあるベンチに腰掛けていた

 桜場はくるくると指でボールを回すと、私の隣に座った

 「珍しいね。サッカーしかしないのかと思ってた」

 「今日の体育、2年とバスケの試合なんだ。やるからには、負けたくないしな」
 
 ニッと笑う桜場の表情は、あどけなさを残しつつ、男の顔になっている

 「ね、お昼は親子丼・・てどういう意味?」

 学食はあるけれど、親子丼というメニューはなかったはず
 出前でもとる気なのかな

 「お前っ」
 私の質問に桜場はベンチの背もたれに仰け反った

 「冗談・・で言ってんだよな?」

 「?」

 「ま・・じ?俺達がバスケをしている間、女子が調理実習で親子丼を作ってくれるはずだろ」

 「あっ・・」

 そう言えば、そんな事を言っていたような・・・
 すっかり、忘れてた
 忘れてたついでに、鶏肉も持ってこなかった

 「まずい。鶏肉」

 「まさか・・忘れたのかよ、鶏肉。お前なぁ、俺んち魚屋だから肉が滅多に出ないんだぜ。だから俺は今日と言う日を楽しみに・・くそっ、親子丼に鶏肉がなかったら、子丼になってしまうだろ」 
 
 身振り手振りで『子丼』を説明する桜場に私は笑みがこぼれた

 「どうしよう。こんな朝早く、スーパーなんてやってないよね」
 コンビニに鶏肉なって、売ってるわけがない
 
 「ぎりぎりだな」
 桜場は立ち上がり、腕時計を見てつぶやいた

 「俺んちの隣、肉屋だから分けてもらえるかもしれない。自転車借りてくるから、ここで待ってろ」

 2分も過ぎないうちに桜場は自転車を借りてくると、私を後ろに乗せた

 「ちょっと飛ばすから、俺にしがみついてろよ」

 「うん」

 「あと、Tシャツは着替えてきたから・・その」

 「ん?」

 「俺の背中貸すから、それ拭えよ」

 それと呼ばれたものは、私の涙で・・

 会った時から涙を流している私に、それに触れずに会話をしてくれる桜場に感謝した