「私の事・・大嫌いなんだよね。顔も・・」
 晶の声がだんだん細くなって行った

 「そう、顔も見たくない。解かっているんなら、オレの前に立つな」

 あぁ、オレ、とてつもなく酷い事を言っている

 「うん」
 晶は胸を両手で押さえ、オレの前から横にずれた

 「・・・」
 オレは無言で一歩踏み出す

 「あの・・直すから。私、悪いとこ全部直すから・・だから」

 悪いとこって・・
 
 「はぁ」
 オレはため息をつくと、晶に向き直った

 「直すって、蕁麻疹を?それって、意思に関係なく、心が反応して出るんだろ。そんな出来ない事を簡単にー」

 「それでも、やるから。私、今は蕁麻疹出てないでしょう」

 確かに、今の晶に蕁麻疹は現れていなかった
 でも、心の問題だしな。単に、晶の心が落ち着いているだけだろう

 それにしても、さっきから晶は胸に何を抱えているんだ?
 両手にスッポリ収まる様な大きさで、白い布にくるまっている

 「それ、何?」
 晶の胸を指差す。途端、晶の指の力が緩んで、白い布はカツンと地面に落ちた
 
 音からして、堅い物?晶が拾う前に、手を伸ばし拾い上げた
 
 ヒヤリとした冷たい刺激が、皮膚に伝わる
 氷?布を外すと、よく刺身などのパックに入っている保冷剤だった

 「これ?」

 「返して」
 晶はオレから保冷剤を奪うと、胸に当てた

 あぁ、なるほど。蕁麻疹を押さえる為に、保冷剤で皮膚を冷やしているのか

 バカだなぁ、こいつ。そこまでする必要ないだろうに

 今、解放してやるからな

 「バカじゃないの。そんな事したって、お前の自己満足でしかないだろ。はっきり言って、迷惑だ。それにー」

 晶の後ろ襟首に手を伸ばした

 「ここに、蕁麻疹が2つ出てるぜ。う・そ・つ・き」

 「そんな!」
 晶はうなじに手を当て、蕁麻疹を隠すと目を潤ませた

 「これは・・何かの間違いなの、この2つだけ昨日から消えなくて」

 「まぁ、お前のその努力に免じて良い事教えてやるよ。今日からオレは家に帰らない。その間だけお互い顔を合わせなくて済むだろ」

 「帰らないって・・何処に行くの?」

 「お前には関係ない。じゃぁな、晶」

 後ろから、声を押し殺して泣いている声が聞こえる

 オレの頬にも冷たい物が、伝わっていた