どうして、『妹』として、生まれてきたのか
 なぜ、『兄』としてオレが存在するのか

 どうして?なぜ?なんて言葉はいくら言ったって、この事実が覆されるわけではない

 「くだらない」

 オレはそういい残すと、『くだらないってどーゆーことーよー!』という母さんの叫び声を背後に受けながら、家を出た

 くだらないから、くだらないと言ったまで
 何が、晶みたいな可愛い彼女を見つければいい・・だ。そんな事出来るんなら、とっくにやっている

 晶より可愛い女なんていないから、今のオレが在るんだ

 ほんと、むかつく。桜庭家の女、2人は!

 「皇兄」

 「・・・」

 後ろから、聞きなれた足音が近づいてくる。オレは晶だと知りつつも、足取りは止めなかった

 「待って、皇兄・・キャッ」

 晶の小さな悲鳴と共に、バタッと地面に平伏した音がした

 「チッ」
 舌打ちをしながら、ゆっくり足取りを止める。
 晶の方を振り向きはしないが、あいつが転んだのは見なくてもわかる

 それに、今更オレに何の用だというのだ

 オレが触れると、蕁麻疹を出して嫌がるのかと思えば、突然オレの事を 『好き』 だと言って来たり

 もう、あいつに振り回されるのはうんざりだ

 だから昨日、晶にはっきり言った

 『もう、オレに近づくな』・・と
 
 『お前なんか大嫌いだ』 とも 『顔も見たくない』 とも言ったはずだ


 なのに・・なんで、こいつは、今、オレの目の前にいるんだ?

 「はぁ、はぁ、皇兄」

 「・・・」

 案の定、晶の右ひざには、しっかり転んだ後があるが、晶はそんな事は気にせず、息を整えるのに必死なようだ

 「皇兄、さっきは、ありがとう」

 さっき?あぁ、さっきのリビングでの事か

 「それだけ?」
 その為に、転んで膝にすり傷をつけて

 「でも、嬉しかったから」
 晶は目を細めて微笑んだ

 今から・・酷い事を言うオレに、お前はいつまでそうして笑ってられるのだろうか

 「別に、母さんに知られると色々うるさいだろ。だから、あの人前では、仲の良いふりをしたまで。家ではそうした方が、オレも楽だしな」

 「仲の良いふり・・」
 晶は大きく瞬きをした後、目を伏せた

 「お前もバカじゃないから、昨夜オレが言った事理解してるよな」

 コクンと晶はうなづいた