「お前何なの?」
 言い様のない苛立ちが、オレの中に生まれてきた

 「自分の事はほっといてくれって、オレに言ったよな。なのに何でお前から近付いてくるわけ?」

 「・・・・」
 
 「また・・ダンマリ・・」
 これもまた、昨日からのお約束

 「ごめん・・なさい」

 「そのセリフ、もう、何度も聞いた」
 晶の『ごめんなさい』を聞くのは、何回目だ?

 第一、謝られる理由を聞いても言わないんだろ

 「もういい加減にしてくれ!」

 オレは、声を抑えながらも晶に向かって怒鳴った
 そして、しゃがみ込んでいる晶の腕を掴み、無理やり立たせた

 その後は、2人とも無言で、庭の木々の風に揺れる音がオレ達を取り囲んだ

 掴んだ晶の腕から、激しい心音が響いてくる。秒針より数倍、早い音

 
 「私・・」
 ようやく、晶はゆっくりと顔を上げてオレの方を見た

 両手をしっかりと、胸に重ねて

 少し開いた唇から、ハフ・ハフと苦しそうに息が漏れている

 オレといるのが苦痛なら、昨日みたいに逃げればいい

 オレはもう、呼び止めないし、追いかけるつもりもない

 さぁ、早く行けよ

 
 「好き・・」

 「?」
 今・・?よく聞き取れなかった。なんて?

 「私、皇兄が好きです」

 「は?・・お前何言ってんの?」
 晶の予想外の発言に、目元の筋肉が引きつった

 この期に及んで、何言い出すんだ?こいつ

 そうやって、何気ない考えなしの発言が、どれだけオレを苦しめているのか知ってるのか?

 むかつく・・むかつきすぎて
 
 晶の白く細い首筋に両手をかけた
 このまま、指先に力を込めれば・・くそっ。出来るわけがない


 『皇兄が好きです』
 
 
 なんで、オレが一番ほしい言葉を・・こんな時に・・本気なの・・か?


 ・・・そうでない事を、晶の蕁麻疹は物語っていた。晶の首筋は赤く染まっていない部分を探す方が、困難な状態だった

 
 「こんな、オレを拒否する蕁麻疹を見せ付けられて、オレが平気だと思ってんの?いい加減、オレの心を弄ぶのはやめてくれ。オレがいったいどんな気持ちで・・・」

 晶の首筋から、ズルズルと脱力感と共に、手を放した

 「もう、頼むからオレに近付くな」

 オレもお前には近付かない。それがお互いの為なんだと・・