「じゅるっ」

 自分のよだれのすする音で、目を覚ました

 「今、何時!」
 腕時計を見ると、深夜2時

 皇兄が眠るのを待ってて、自分が寝てしまった


 「行ってみよう・・かな?」

 ヒタヒタと足音を立てないように気を配りつつ、皇兄の部屋の前へとたどり着く

 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回し、顔だけドアの隙間から覗き込んだ

 部屋の中は、外の街灯の光が差し込んでいるんだけど、入口付近までには届いていない

 微かに、ベットに横たわっている姿が見える。けど、皇兄が眠っているかどうかは確認出来なかった


 「失礼します」
 しゃがみ込んで、部屋に入ると四つん這いになりながら、前に進んだ

 「ひゃっ」
 ベットの近くに差し掛かったとき、手元に物体が当たり、思わず声が出た

 まずい!聞こえた?

 ベットの上の皇兄は動く気配はなかった

 でも、何が当たったんだろう?両手でその物体を手繰り寄せ、街灯の光の方向へ持ち上げた

 「制服の上着・・だ」
 Yシャツも一緒にあって、脱ぎ捨てたままの状態になっている

 私ならともかく、几帳面な皇兄にしては珍しい光景

 パタパタと軽く埃を払い、形を整えて、ハンガーにかけ直す

 「ふぅ」
 何やっているんだろう、私
 
 制服を片付けられないくらい、皇兄は疲れているのに

 私ってば、何をやっているのだろう・・・?

 もう、やめよう。こんな事、確かめるまでもない
 結果は解かっているんだから。このまま、黙って部屋に戻ろう

 ドアの方へと踵を返した時、後ろから声がした

 「あき・・ら」
 
 「え?皇兄・・起きたの?」

 「・・・」

 寝言?でも今、『あきら』って聞こえた

 「皇兄?」

 枕元にそっと寄ると、皇兄の顔を覗きこむ

 皇兄はくの字に曲げた右腕を枕にし、左腕で枕を抱え込むように眠っていた

 ドキンと胸が高鳴った。言い訳するなら、皇兄のこの寝顔を見たら、誰でもこうなると思う

 スーとした眉毛に、切れ長の瞼

 整った高い鼻に、形の良い薄い唇。なんて、綺麗な顔立ちなんだろう

 でも、やっぱり少し顔色が悪い

 「皇兄、あまり無理しないで」

 
 会長さん、会長さんの言ったこと間違ってましたよ

 ほら私、ちゃんと皇兄の顔見てるけど、平気だもの

 動悸も・息切れも・熱くも・蕁麻疹も何も出てこない