「『もも』それ、ほんまにそう思とるんか?」
 会長さんはコピー機の電源を入れ、カードキーを差し込み、手馴れた手つきでボタンを押した

 本当は私がやるはずなんだけど、電源スイッチを押す所から躓く始末
 見かねた会長さんが私を丸椅子に座らせ、代わりに操作をしてくれたのだ

 「だって、動悸・息切れはするし、身体の血が沸騰しそうなくらい熱くなって。これってやっぱり病気なんだと思うんです」

 ちなみに現在、私の身体は落ち着きを取り戻しつつあった
 会長さんの顔色も、赤みが除々に引いてきている

 「病院、行った方がいいですよね?」
 病院特有の雰囲気と医薬品の匂い。行く前から、気分が重くなってしまう

 「これって、何科に行けばいいんですか?」
 蕁麻疹は皮膚科。じゃぁ、動悸・息切れは何科なの?


 「心療内科とちゃうか」

 心療・・内科? 
 「心療内科って、心の病気を治すところですよね?でも症状でいったら、心臓科とか呼吸器科の系列になるんじゃないですか?」

 心はいたって元気なんだけど。ただ・・しいて言うなら、時々・・


 「あー。ほんまに、真面目に言うとるで、この子は・・」
 会長さんはため息と共にネクタイを乱暴に外した
 そして、私の目線の位置にしゃがみ込んだ

 「ほんまに、解からへんの?それとも、わざど気付かん振りしとるん?」

 「?」

 「双葉と違て、打算で物事を考える様な子やないもんな『もも』は・・・はぁ」

 会長さんは両手で頭を抱え込んで、動かなくなった

 「もし、俺の考えが正しかったら、なんちゅう損な役回りやねん」

 「会長・・さん?どこか具合悪いんですか?」
 慌てて、椅子から降りてしゃがみ込んだ

 「大丈夫ですか?」
 額に手を伸ばそうとすると、瞬前に右手の平を掴まれ、あっという間に立たせられた
 
 私の手の平は会長さんのブレザーの左懐へと忍ばせられていた

 ドクッ・ドクッ・ドクッ
 会長さんの心臓がものすごい速さで脈打って、プクッと吊り上げた頬の肉が、ピンク色に染まっている

 「あ・・の・・・?」

 「ごっつう心臓、踊っとるやろ」
 次に、左手の平を掴まれ、会長さんの右頬に持っていかれた

 「見せたないけど、顔、赤こうなって、熱をおびとる。『もも』が言っている症状と同じ・・」
 そう言うと会長さんは、目を伏せた