晶は笑顔で空を見上げていた
 その横で1年の男子が舞い落ちるティッシュを空中で掴んでいる

 「桜場・・」
 その男子は同じ中学出身で晶と同い年の桜場だった
 あいつら同じクラスだった

 『お前なぁ、状況を見ろよ。これが落ちた庭を掃除するのは誰なんだよ』
 桜場に指摘された晶は、現実に気が付き『あ・・』と口をポカンと開けた


 オレは声を押し殺して笑ってしまう。表情がコロコロ変わって目が離せない奴


 『誰がこんな・・』
 サラサラの髪を揺らし、風の流れを肌で感じながら晶はオレのいる窓に目を置いた

 すると晶の表情が曇り、掌を心臓にあてている。そして、桜場の後ろに小さくなって隠れたのだ

 まるで、狩から逃げる子ウサギの様に・・・桜場の背中から離れようとしない

 さっきまでの笑顔が、こっちを見た途端、ガラッと表情が変わった


 逃げるって、誰から?・・・オレからか?

 「は・・理由(わけ)わかんねぇ」
 額の髪をかき上げ、窓の桟に手をかけた

 「あきら!」
 窓に身を乗り出し、下に向かって叫ぶ

 オレの呼び声に、氷の様に固まって晶は動かなくなった
 晶の身体に、昨日と同じ蕁麻疹が現われ始めている。いったいどうなってんだ?

 「今からそっちに行くから、その場から動くな!桜場、晶を捕まえてろよ」

 目線で桜場に合図をし、生徒会室を飛び出した
 オレの叫びに何事かと、周りからの視線を無視して・・

 昨日は晶も取り乱していた為、落ち着くまでと思い止まったが、もう我慢の限界

 階段を駆け下り、中廊下を抜けて、目的の中庭に着くまで2分とかからなかった

 「はぁ、はぁ、桜場、晶は?」

 「え・・と・・」
 桜場は困ったように頭をかいて、言葉を詰まらせた

 「あいつ、逃げたのか」
 そうやって、いつもスルリとオレの手から逃げていく

 「急に、先生に呼び出されて仕方なかったんです。すみません」
 オレの不機嫌な声に桜場が頭を下げた

 オレがここに来る1~2分の間に都合よく呼び出されるはずはない
 桜場にこんな嘘までつかせて
 晶が無理を言ったに違いない

 「いつも、悪いな。桜場」
 さっき、上から2人の様子を見ていてわかった
 晶にとって、桜場は気を許せる存在なのだと
 
 そんな桜場に少し嫉妬した自分がいた