「あー!!あの部屋からゴミが出してやがる」

 ちょっと桜場、大きな声だすなー!!
 思わず手に力が入り、桜場の制服を引っ張る

 「ぐぇ、苦しい。『にわ』、首が・・息が」
 桜場(さくらば)は私と同じ桜庭(さくらば)という発音の為、私の事を『にわ』と呼んでいた

 「ごめん」
 手を緩めると、桜場は2階の窓を睨んだ

 「文句言ってこようぜ」

 「止めとこうよ。私達が掃除すればいい事だし」

 「でもなー。せっかく俺達が掃除したのに・・」
 ぶつぶつ文句を言う桜場をなだめ、生徒会室の窓から下がって行く

  落ちたティシュを屈んで拾い始めた。パッパッと片付けてこの場を去らないと・・

 
 『あきら!』
 
 「!!」

 私の名前が、風に乗って聞こえてきた
 低めの通る優しい声

 皇兄だ

 私はしゃがみ込んだまま、固まってしまう

 「あれ、皇先輩じゃないのか?」
 桜場が2階の窓を指差し、私の上着を引っ張った

 ドクン・ドクン・ドクン
 声を聞いた為に、耳の先が熱くなってきている

 息が・・苦しい

 「お前、顔赤いぜ。大丈夫か?」
 ヒンヤリした掌が私の額に置かれた

 「桜・・場、私・・」

 『今からそっちに行くから、その場から動くな!桜場、晶を捕まえてろよ』
 命令口調の皇兄の言葉が響き、パタンと窓ガラスが閉められた

 やだ
 皇兄がここに来ちゃう!

 私はキョロキョロと顔を振り、立ち上がった
 
 「おい、何処行く気だ?」
 逃げ出す私の腕を桜場が掴む

 「皇先輩来るから、待ってろよ。お前、熱あるみたいだし丁度よかったな」

 よくない。全然よくない
 この熱も、息苦しさも、皇兄が・・皇兄のせいなの

 「桜場、お願い。離して」
 
 「え?何言ってんだ?お前・・首に・・?」
 桜場の視線が私の首に集中している

 「なんだ?その斑点?」
 私の首筋に現れた蕁麻疹は桜場の目にはいったいどの様に映っているのだろう

 「でも、皇先輩が捕まえておけって・・」
 桜場は皇兄に妹を助けてもらった恩義がある。その皇兄の言う事に逆らうはずがなかった

 「さ・く・・らば・・!」
 私の悲痛の声に桜場の顔が困惑して歪んだ

 「行けよ。お前が勝手に逃げた事にするからな」

 桜場の手の力がゆっくりと緩められた